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だが――
ケルベロスの突進を見切った『玩具屋』は、次の瞬間その瞳を驚愕で見開く事となる。
巨体に隠れ、己に迫ろうと身を走らせていたのは――ラスト本人。
馬鹿な、満身創痍に近い筈だった――そんな思いを胸にしながらも、男は行動に起こす事が出来ずにいた。
反応は出来た。
ボロボロの身体で繰り出された拳打だ。迎撃を合わせるのも、充分に可能だった。
なのに『玩具屋』は微動だにしない。
それは何故か。その答えは、この少年の戦い方が――あまりにも懐かしく、そして幸せすぎたから。
――……ああ。
顔面を抉る拳打。
追い討ちをかけるようにして迫る召還獣の攻撃の嵐。
――スー……さん。
毒を取り出そうともがき、残った左手を箱の中に入れようとしても――即座に繰り出されるラストの足刀。
召還獣の猛攻に混じる、適格なラストの補佐が『玩具屋』から行動の全てを奪っていく。
――……僕は……。
薄れゆく景色の中『玩具屋』は目の前の少年に、かつての信仰の対象を重ね合わせていた。
召還獣を巧みに操り、その中で自らも戦場で身を踊らせた――かつての最強の一角。
その一角が。その最強と同じ戦い方をする者が、今――自分を追い詰めている。
こんなに嬉しいことはない。こんなに幸せなことはない。
どれだけ努力しても、どんな鍛練を積んでも届かなかった怪物が――今、自分を殺そうと必死になっているのだから。
――やっと……貴方達と、同じ場所に立てたのでしょうか……?
そして、幾度とない攻撃の嵐の中――『玩具屋』は薬が切れると同時に、意識を暗闇へと放り投げた。
己の中で沸き上がった、至上の幸福を噛み締めながら。
「……ぐっ、がぁ……」
『玩具屋』が地に伏したのを確認し、ラストもようやく息絶え絶えといった調子で膝を付く。
無論、全身を襲う激痛も関係している。だが、それ以上にラストは、己の魔力の枯渇で動くことすらままならない状態だった。
通常の人間よりも魔力が多いとはいえ、これだけの召還獣を呼び出せばこうなるのは当然だろう。
更に、ラストはこの戦いの最初においても、召還獣の力を使用していたのだ。
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