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玩具屋の中に入った――あの赤髪の少年。その存在こそ、ラストが最初に呼び戻した精霊に他ならない。
姿形を変化させる精霊。
召還獣には死という概念が存在しない為、爆薬と共に偵察にいかせたのだが――それが魔力消費の要因の一つである。
召還獣を具現させ続けるには、今のラストの魔力では心許ないのも事実だ。
だが、結果だけ見ればラストの策は成功した。『玩具屋』が扱う毒が召還獣に効くのかというのは、既にサロウの毒で検証済みである。
仮に勘繰られたところで、店をそのまま爆破してしまえばいい。そこまでは充分だった――ならば何故、ラストは『玩具屋』相手に最初から召還獣を繰り出さなかったのか。
確かに、自らが攻撃に移る段階で召還獣を使役すれば、こんな有り様にはならなかったかもしれない。
しかし、ラストにはそれが出来ない理由があった。もしも『玩具屋』が、致死の猛毒を何らかの手段で持ち得たなら――もしも相討ち覚悟でそれを使ってきたら。
その可能性を排除しない限り、ラストは自分の勝ちがない事を理解していた。
だからこそ、彼は――あの勝勢から『玩具屋』を巻き返させた。
相手が優勢になりつつある場で、相討ちの覚悟を捨てさせた。嘘を吐くことで、致死の猛毒を使えぬ状況に動かした。
『玩具屋』が自分に躊躇なく向かった瞬間、ラストが勝ちを確信したのはこの為だ。
もう一つの瓶が致死の毒ならば、ああも単純に向かって来はしない。
故に、ラストはようやく必殺の魔法を使えるまでになったのだが――――
――……これだけ策を練っても尚、ここまでボロボロにされるなんて……。
――最後なんざ、もう魔力が終わりかけて……俺の方が先に倒れそうだった……。
死んでいるのか生きているのかも分からない、安らかな顔を見せる『玩具屋』を複雑な表情で見据えるラスト。
何の前情報も無しに戦えば、間違いなくこうなっているのは自分だろう。
それも、全く勝負にならない。呆気なく殺され、呆気なく死ぬ。
そう感じさせる気迫と、経験だけではない積み上げられた何かが『玩具屋』にはあったのだ。
――一体……何がこの男をここまで……?
――いや……それよりも……。
「勝ってやったぞ……!」
渾身の力で拳で天を突くラスト。朗らかな笑顔で空を見つめながら、彼もまた――意識を宙に手放して眠る。
確かな手応えを胸に抱いて――
☆☆☆
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