玩具屋

25/34
前へ
/112ページ
次へ
「うん、やっぱりだ……いや、疑ってたわけじゃあないさ。ただ、僕は自分の目で見たものを信じる人間だからねぇ」 戦闘の顛末を見届けながら、ヌルは耳元で何かを囁く。 何らかの通信器具を使用しているのであろう。まるで、何者かに語りかけるようにして紡がれる言葉は、独り言の類のものでない。 「アイツは……弟子だね。え? 大丈夫、殺しはしないよ……僕が今まで嘘を吐いたことなんて、片手で数えるほどしかないんだから」 揺ぎ無い自信を以って放たれた言葉を最後に通信を切ると、ヌルは一瞬でラスト達の元へと移動した。 隻眼で見据えるのは、半分死に掛けているような弱者たちの果て。 ――……ふふ、なかなか面白い戦いをするじゃないか、ラスト君。 ――さて、どうするのが一番かな? ヌルは思考する。 この場で自分がどう行動するのが、一番面白くなるのかという事を。 無難にラストを救い、餌を水場に垂らしておくべきか。それともラストを殺し――あの男がどういう策を成してくるのかを待つか。 どれだけ考えても、ここで最善の答えは返ってこない。しかし、ヌルは己の微笑を崩す事をしなかった。 ――……く、くくく……どうやら君は泳がせておきたいらしい。そうだろうねぇ、君からすればあの男への唯一の手掛かりなんだから。 ――だったら、僕は選ぼうじゃないか。今、ラストを殺すという選択肢を……くはは、面白いよ。 ――僕は何よりも、君が苦しむのが楽しいんだ。たとえこれが最悪の選択肢となろうとも、僕にとっては最高さ! 瞳に愉悦を映し、頬には引き裂かれたような醜悪な笑みを落とすヌル。 己の内なる怒りを笑いながら、少年は高々と手を振り上げ―― 「――何をしている」 その手を遮る声が、新たに鼓膜を震わせる。悪びれもなくヌルが振り向いた先にいたのは、二人の男女。両者の視線には静かな怒りが込められており、さしものヌルも肩を竦めることしか出来ない。 「そんな怖い顔しなくても……治そうとしてあげたんだよ? それとも僕の言葉が信じられないの?」 「ああ、信じるさ。お前が言うんだから……だが、すんなりと何の疑いもなく信じられる事こそが、お前の嘘だっていう証拠だろうが」
/112ページ

最初のコメントを投稿しよう!

241人が本棚に入れています
本棚に追加