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「ううん、酷い言われようだね。これじゃあ人間不信に陥っちゃう」
からかうような言葉を無視し、男――レン・フォーリスは安らかな寝顔のラストの元へ駆け寄る。
だが、すぐ隣に位置するヌルへの警戒を絶った訳ではない。その証拠に、自分達を見渡せる場所に女――サーミャを立たせていた。
「……コイツは鍵だ。あまり勝手をするようだと、殺すぞ?」
「『遺伝子』様に言われちゃあ、僕も震えるしかないね」
「ふざけているの?」
言葉のとおり、ヌルからは怯えた調子は一切見られない。
全身に苛立ちを纏わせながら、サーミャは眉間に皺を寄せた。
「とんでもない、僕なんかが『遺伝子』と戦ったら、三割くらいの確立でしか生き残れないよ。でも、『全帝』の君とは……そうだな、十割は固いかな」
「……」
「あ、でも……どちらにせよ、そうなったら僕の死は確定しちゃうだろう? ほら、君達の親とか兄さんは……怪物だからね」
それでも――と、ヌルは邪悪な微笑を絶やさずに続ける。
「『全帝』……君が殺されても、君のお兄さんが復讐するかは疑問だねぇ。寧ろ、感謝されてしまうかな?」
「どうとでも言いなさい。それとも、私達二人を相手に殺し合いでも始める気?」
「止めろ、お前ら。ラストの回収は済ませた……ここにいる意味はない」
静かに殺気立つ両者を宥めながら、怒気収まらぬといったサーミャへと、ラストを手荷物のように渡すレン。
こんな場所で二人が戦ったら、周囲の人間は確実に巻き込まれるだろう。
それだけでなく、ラスト達の戦いの騒ぎに、住民が何事かと顔を出し始めている。ヌルは暗部の人間であるからまだいいが、ラストは学生として公の身分にいる立場だ。
顔を覚えられては、面倒ごとに巻き込まれる可能性も増えていく。
「ちょっと……何で私がコイツを……」
「お前、何の為に来たんだ。ランドの学生なら学生らしく送り届けてやれ」
「わ、私は……貴方が心配で」
「いいから行け、俺は後始末しなきゃならないんだよ。頼んだぞ。な?」
乱暴に頭を撫でられ、笑いながらそう言われてはさしものサーミャも抗えなかった。僅かに頬を染め、少女は名残惜しそうにランドへと消えていく。
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