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「見せ付けてくれるね」
「……今度、サーミャに余計な口出ししたら殺すからな」
軽薄に紡がれた言葉に返ってきたのは、静かな眼差しだった。
そこに怒りはなく、殺意もない。何の感情もない――空虚さだけが残る瞳。
レンはそれだけ伝えると、サーミャと同じようにその場から姿を消す。その後姿を見送り、ヌルは自嘲気味に溜息を吐いた。
――いやぁ、流石……『遺伝子』だ。
――あの二人の息子なんだから、当然といえば当然だけれど……。
――どうやら、僕の生き残れる確立は一割らしい。
背中に冷や汗を滲ませつつ、己の目測を素直に誤ったと感じるヌル。あれだけの力を持つ者だ。もう上位ランカーとして名前を並べてもいい頃だろう。
同時に、少年の脳裏に浮かんだのは――レンと同じ境遇の青年の姿だった。
かつて、あの青年の才能は目の当たりにしている。仮にあの時、自分が立ち向かったとしても一瞬で塵にされたであろう。
――それだけの才能を持ちながら、まだあんな所で燻ってるんだから……狂人の考えは分からないものだね。
――さて、大物はかかるのかな? それとも逃がした魚は大きいか?
――どちらにせよ、僕は自分の役割を果たそうかな。ふふ、楽しみだなぁ……スーが釣れるのか、アクが釣れるのか……それとも……。
本性を笑顔と嘘で塗り固めた少年は、楽しげに笑い続ける。
無邪気に――あるいは、狡猾に。そして悪意を織り交ぜながら。これから始まる喜劇を待ち望む、観客のように――
☆☆☆
三日後 ランド
「……治ったかと思ったら、すぐに怪我して戻ってくるなんて、どうしたの?」
「あれ? サーミャちゃん、心配してくれてるんだ?」
大聖堂を髣髴とさせる煌びやかな廊下に、今日も男女の声が響き渡る。
だが、それを注意する者などいない。周囲の生徒たちは二人の姿を見て、関わらない方が無難だとばかりに足を速めていくからだ。
そんな空気を気にもせず、普段はみせることのない態度で笑うラスト。対照的に、サーミャの視線は冷ややかなものだ。
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