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しかし、その強さ故か――彼に教鞭を振るう教師達が、皆頭を抱えているのもまた事実だった。
技術や力、魔力に限った話ではない。ラストよりも弱い新任の教師もいるのだが、そこは世界から熱が篭った視線を投げかけられる機関である。
かつて、同じようにこの国を脅かしたギルド――『スタージャ』から派遣された教官にかかれば、学生など片手で放るに違いない。
問題は、ラストの態度にあった。
彼のこれまでの口振り。弱者に対する侮蔑。
自分よりも遥か下にいる人間を見下す傾向は、ランドの特待生――所謂エリートによくみられるものだ。
それでも、ラストのそれは明らかに度を超えている。最早、侮蔑ではなく怒り。もしくは、憎悪。
弱者に対し、あからさまな挑発をし、圧倒的な力で薙ぎ倒し――入学して三ヶ月の時間が経ったが、ラストの起こした暴力事件は二桁にまでなっていた。
「……私はつまらない場所だとは思わないけれど」
敢えて、絡んできた生徒たちの事は触れないようにしたのか、サーミャは小さく呟く。
「こういう所、嫌いじゃないわ。貴方は下に見ているのでしょうけど、みんな向いている方向は同じ。強くなりたいって気持ちを貶す気にはならない」
「俺だって強くなりたい、上にいきたいって感情は否定しないさ。でも、弱いって事を免罪符にしてくる奴等には吐き気がするだけだ。俺の言葉だって、雑魚が語ればただの負け惜しみで相手にもされないんだろうが……」
「立場の違う人間が同じ言葉を喋っても、同じ風に伝わるとは思わない方がいいわ」
「……うーん」
「貴方の事、好きなの」
「……え?」
突如として紡がれた言葉に、身体を固まらせるラスト。一方、サーミャは頬を染める事すらせずに、淡々と普段と同じように続けていく。
「貴方の嫌いな……それこそ生徒会長さんに言われたら、同じような反応を返すかしら?」
「……考えただけで、吐き気がする」
「もう少し考えて生活することね。じゃあ、私はこの辺で」
顔を青くするラストを気にも留めず、先に歩みを進めていくサーミャ。遠ざかる背中をただ見つめる事しか出来ず、ラストは唇を噛み締める。
「いやぁ……適わないな」
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