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何者かと目を向けた先には、見覚えのない三人の男の姿が。
いや、背格好や制服を見れば、同じ学年の生徒らしい。ならば、何らかの認識が向こうにあるのは道理か。
だが、ラストからすれば、何故自分の名前が呼ばれたのかは分からなかった。少女たちに視線を合わせても、返ってくるのは疑問の色のみ。
そんなラストの様子に、男たちの表情が怒気で染まる。要するに、あの赤髪の少年は、自分たちを覚えていないということだ。
「相変わらず、腹が立つ野郎だな……? お前はよぉ?!」
「あー……誰?」
「……ぐ、く……はは、やっぱり天才様は凡人の顔なんか覚えないってか? 人の努力を散々否定しておいて、それってのはどうなんだぁ?」
苛立ちで全身を染め上げる男の言葉で、ようやくラストは思い出す。
確か、幾分か前の模擬戦で叩きのめした男だったか。
その時――彼の魔力の扱い方に言葉を投げたかもしれない。とはいえ、まさかここまで根に持っていたとは。
同時に、ラストは思う。
この男は、あの程度の力しか扱えないのに、それを努力と自ら称した。
どん底から這い上がって得た力だというのなら、ラストも称賛したかもしれない。しかし、目前の男の身体からは――鍛練の跡など一切見えはしなかった。
――……一体、あの男は……『玩具屋』は何を見てきたのだろう。
――何を見て、あそこまでの強さを得ようとしたのか……あれこそが、本当の努力の証なのかもしれないな。
今一度、自分が戦い勝ち抜いた存在に敬意を表し、目の前の男に哀れみすら浮かべるラスト。
それが相手に伝わったのか、男は怒りで身体を震わせて殴りかかろうと――した。
その瞬間。
かつり、と。華美を敷き詰めた広い空間に、一つの足音が鳴り響いた。
普段から幾百、時には幾千の足音が踏み鳴らされる廊下である。
しかし、その足音が響く時は――誰もが立ち止まり、息を呑んで静寂を造り上げていく。
それは畏怖からではない。
彼等が思うのは、単純な憧憬。自分たちが踏み鳴らして生まれる雑多な音が、彼のいく道を汚してはならないという崇拝にも似た感情が、そうさせたのだ。
無論、今日その時も例外ではない。
ラスト達の喧騒を遠巻きに野次馬根性で見ていた生徒らも、その足音の主へと視線を向けていく。
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