玩具屋

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まず最初に目に入るのは、二人の女性。 雰囲気は違えど、どちらも美女という括りには間違いなく入る容姿である。 片方は、淡い水色の髪を一本で結った貴族風の女。 黒い男性用の衣服を纏っていても分かる上品な空気。伏せた瞼から伸びる睫毛や、枝毛一本とない髪はどれだけの手入れが施されているのだろうか。 纏う空気も、平民のそれと一線を画する類いのものだ。サーミャが持つものに近いが、それよりも上流階級であると推測できる。 もう一人は、黒髪を肩で切り揃えた利札そうな容姿の女性。 彼女もまた、上流階級の人間が纏う空気を持っているが、水色の女と比べれば――どこか嘘臭さがあるのは否めない。 それでも、サロウにも劣らない身体つきであるというのに、下品さを全く感じさせない何かがあった。 それは貞淑から来るものか。あるいは、何者も寄せ付けない拒絶の意があるからか。 黒い男性用のスーツを纏う美女たちは、生徒達の視線を軽く受け流し――歩み続ける。 だが、彼女たちもまた、全く足音をたてることはしなかった。まるで、その二人こそが、足音の主を最も敬愛しているのだと証明しているかのように。 こつり、こつり―― 足音は一定の間隔で響く。 そして、美女たち以外の視線は――足音の主に全て注がれていた。 先程の女性が霞む――見た者は口々に"彼"をそう称える。 紅やシャドーを使っている訳ではない。寧ろ、そうした艶は無縁とばかりに、化粧を施した様子は見られない。 だというのに、天界の贈物と表すのが最も相応しい容姿。切れ長の眼差しと、そこに光るコバルトブルーの碧。 清流を彷彿とさせる肩まで伸びた金髪。 かつて世界を恐怖に陥れた女とよく似た風貌の青年は、僅かな間を置いて黒髪の美女を一瞥する。 ただそれだけの所作で、全てが伝わったのだろう。黒髪の女はラスト達の合間に一瞬で踏み込むと、二人の腹部に掌底を叩き込んだ。 完全に不意を突かれた両者は、女の容赦ない一撃に悶えることしか出来ない。 「模擬戦以外での私闘は……固く禁じられている」 「……」 頭上から響く黒髪の声音は、鋭利な刃物そのものだ。ラストに絡んできた男など、それだけで狼狽して失禁する始末だった。
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