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「何……してるのかしらぁ? 護衛さん?」
首筋に刃物を宛がわれたと錯覚する緊迫の中、最初に言葉を発したのはサロウだった。
流石、二年の中でも屈指の強者と呼ばれているだけはある。普段は妖艶に笑みを浮かべる眼に、今は鋭い殺気が灯されていた。
だが、黒髪の女はさして気にした様子もなく、冷たい眼差しをラストに向ける。
「ラスト一年生、君の態度には常々苦情が来ていたところだ。これを機に、驕りを捨てるがいい……教訓を胸に刻め」
完全に無視された形となったサロウは、怒りで肩を震わせる。それでも飛びかかろうとしないのは、彼女達の間に明確な差が存在するからか。
「……くく」
殺意が混じりあう空間。
先程まで傍観に徹していた野次馬達も、皆凍りつく中――ラストは静かに笑った。
「言ってくれるな……怪我人に暴行しておいて、よくそんな口をきけたもんだな? ま、それはそうだろう……留年野郎の介護をしてれば、ストレスも溜まるもんなぁ?」
「…………」
ラストの言葉に、今度こそ完全な沈黙が場を支配した。
サロウやサーミャすらも、目を見開いて傍観者となるを得ない。
その呟きに、二人の美女は目を細める。激昂しなかったのは、ラストの指摘があまりにも的外れだったのに他ならない。
だが、それが自身の主を侮辱された事を許す理由にもならなかった。
――……来るか。
二人の殺気が内側から滲み出るようにして、自身を包んでいく。徐々に臨戦態勢になっていく両者を睨み、ラストはどう逃げるかと算段を立て――瞬間。
「君は、何を目指しているんだ?」
周囲に満ちた緊張感を、砕く声が響いた。
その言葉だけで、女達の殺気が消滅する。泣き出さんとばかりの生徒達の心が弛緩する。
声の主――金髪の青年は、どこか懐かしむような表情で、ラストだけを見据えていた。
海のように深く、鋼よりも固い意思が混ざる視線。ラストには、それがたまらなく不快に思えた。
自分の矮小さを見せつけられている――そう感じてしまうから。
「……どういう意味だ?」
「俺は、君が馬鹿ではないと思っている。しかし、今ここで俺を侮辱するのは……あまり利口な選択に見えないからな」
「……」
「わざわざ暴言を吐いたのに、何か理由があったんじゃないか?」
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