玩具屋

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金髪の青年は、ふむ、と顎に手をかける。 ただそれだけの所作で、周囲を虜にする美貌は時によって考えものだが――彼はさして熱い視線に気にした様子もない。 「例えば……そうだな。ミーナとロウナを限界まで引き付け、逃亡しながら……一人になった俺を狙う……という理由が浮かぶが、どうだ?」 「――!」 その言葉に凍り付いたのは、ラストだけでなく――二人の美女。 彼女たちは今の今まで、ラストを追い詰める算段を立てていたのだ。 仮にそうなってしまえば――暗い影が、彼女達の顔を染めていく。 そして、ラストもまた驚愕する。最も上手くいけば、そうなればいい――その程度の思考ではあった。それでも、こうも簡単に看過されては立つ瀬がない。 「合っていたようだな……だから、聞かせて欲しい。君は何故、そんな手段を用いてまで、俺を倒そうとする?」 ラストの反応で察したのか、安堵したように微笑む青年。ラストとしては何か言い返してやりたかったが、これ以上言葉を重ねるのは見苦しいだけと判断し、 「……最強を目指してるからだ」 「……」 「自分からは動こうとしない弱者、弱いからといって戦いもしない愚図。そういう奴等になりたくない、そんな奴と同じ立場に立ちたくない……だから、俺は最強を目指してる……その過程でお前が邪魔なだけだ」 素直に胸の内を吐露する。周囲の生徒――だけでなく、サーミャやサロウも初耳だったのか、彼の発言にまたもや目を見開いていた。 だが、二人の美女と金髪の青年は違う。 三人とも、何かを懐かしむように――今はいない、最強を目指した友をラストに重ねていた。 「……そういう自分勝手な思いで、力を欲する人間は……嫌いじゃない」 柔らかな微笑を浮かべる青年。そして、彼は何事もなかったかのように歩みを進め、ラストの元を通り過ぎていく。 ラストだけに聞こえる、小さな呟きだけを残して。 「模擬戦、楽しみにしてる」 そして、三人が去った後――生徒たちは未だに動けずにいた。極度の緊張とは、極寒の地に似たものである。 誰もがすぐに動ける訳ではない。ラストもまた同様に――一人の男の背中を真っ直ぐと見つめる。 クレア・フォーリス。 二年の空白を経てランドに戻ってきた――かつて、主人公と呼ばれた男の背中を――ラストはただ見つめる事しかできなかった。
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