二章 魔神

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数日前 スタージャ 「暇人共、死ねよ……俺がこんなに忙しい目に合ってるっつーのによ」 グラバラスで最も有名な観光地としても知られる、スタージャ本部。 そこへ集う者は、何も強者や依頼者だけではない。寧ろ、スタージャの周囲の人だかりの大半は、強者を一目見ようと集まる観光客である。 そして、その観光客をスタージャから苛立たしげに見つめながら、男は呟いた。 「『玩具屋』が死にかけてたとか、それを俺が何時間もかけて治してやったとかはどうでも良いんだが……いや、本当にどうでもいい! 間違いねぇ! 誰も気にしてない!」 「気にしすぎだろ」 「はぁ? お前は気にしろよ! 何で助けてやった俺が、哀れみの目線を受けなきゃならねぇ!」 「哀れんでなんかないっての……で、ソイツは大丈夫なのか?」 全身で怒りを露にし、レンを睨み付ける男――『霊界師』。長身痩躯のどこか頼りない身体つきは、まさに彼こそが病人と錯覚させるが、これでもれっきとした医者である。 その証拠に、彼の隣には、包帯を幾重にも巻いた『玩具屋』の姿があった。 「……まぁな、取り敢えず死ぬことはない筈だが……仮に死んだところで、俺が引っ張ってやればいい話なんだけどな」 『霊界師』――その名が示す通り、彼は人間の魂に触れる力を持っている。 幼い頃は、その力のせいで周囲から浮いていたらしい。だが、男は挫けることなく、その特性を活かし――今ではスタージャで最も信頼される医者になっていた。 何しろ、短時間の猶予しかないとはいえ、死んでしまった人間を生き返らせることが出来るのだ。 医者としては、これ程の名医も存在しないだろう。 「……しかし、あの『玩具屋』がランドのガキに負けるとはねぇ」 『霊界師』は疲れきった表情を浮かべ、『玩具屋』を切なげに見つめる。 先程まで怒り狂っていたというのに、次は哀愁を浮かべるなど忙しい男だ。 レンは脳裏にそんなことを思い浮かべたが、どうにも面倒臭い事になりそうなので黙っている事にした。 「俺も今年で三十になるけどよ、若い才能にオッサンが負けるのを見るのは……辛くなってくるよなぁ……」 「それだけ若くなくなってきただけだろう?」 「お前も十年も経てば分かるよ……」
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