二章 魔神

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悲しみに暮れるようにして、溜息を深々とつく『霊界師』。男は身に纏う白衣から煙草を取り出すと、仮にもここに患者がいるというのに、紫煙を曇らせる。 鼻につく煙草の臭い。 部屋の四隅に目を凝らしてみれば、清潔感溢れる筈の白を基調とした病室に黄ばみが生じていた。 この男は、誰を治療する時でも、こうして構いなく煙草を吹かしているのだろうか。 それでも――青年はそれを咎める気は毛頭ない。 ――そういえば、親父も吸ってたな……。 長らく目を覚まさない父親の姿を『霊界師』に重ね、しみじみと過去に浸るレン。 だが、彼は何も死にかけの『玩具屋』の命を救いに来ただけではなかった。レンは己の郷愁に似た感情を遮断し、表情を固くさせて問いかける。 「……で、実際のところどうなんだ? 『玩具屋』の魂から、あの大量殺人の犯人だって証拠は見出だせたのか?」 「…………」 問い掛けに返ってきたのは――沈黙。 即ち、答えは見つからないという話だった。 『霊界師』は別段、力がある訳ではない。 それこそ、彼が戦えば――それこそ、ランドの並の学生にも劣る程度の力しか持ち得ていないのが現状である。 だが、『霊界師』曰く、魂でいる時間はその人間が最も脆弱である瞬間――との事だ。 それはどの人間も同じようで、流石にドラグなどはその常識に当てはまりはしないだろうが―――― 魂だけの状態なら、レンやサーミャであっても、格下の『霊界師』に抗う術はない。 故に、『霊界師』は死んだ人間からも、情報を取り立てる事が出来る。 ほんの少し魂に触れただけで、本人すらも覚えていない過去を脳内に映せるのだが、紫煙を含みながら『霊界師』は頭を振った。 「そもそも、まず『玩具屋』は死んでないからな。身体という器に魂が入りっぱなしな訳だ……流石の俺も、死んでなきゃ魂は触れられない」 「……だったら、俺がコイツを殺せば魂に触れられるんだな?」 「ふざけんなよ……俺は医者だぞ? 確かに殺人鬼を捕まえられるのに越したことはないが、みすみす患者を殺させるかよ」 「……そういうと思ってたよ」 瞬時に眼光を鋭くさせる『霊界師』に、レンは肩を竦めた。
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