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この男は、どうにも甘い。
最も合理的な手段を選ぶならば、自分が提案したことをやるのが一番なのだろう。だが、レンはそんな甘い思考が嫌いではなかった。
「しかし、どうするべきかな……殺人鬼の正体がこいつだったら話は済むんだが……おい、お前はどう思う?」
穏やかな表情で『霊界師』に歩み寄るレン。しかし、その声音から放たれる威圧は、男に一切の嘘を吐かせないものがあった。
ここ数件起きた、連続殺人。
『玩具屋』が住む街で殺された少年少女の数は、これで八人――
あるいは、絞殺。あるいは、毒殺。あるいは、斬殺。
その殺し方には、ただの一つも共通するものはない。言い換えれば、そこに美学というものは存在しないのだ。
例えば、人肉を好んで喰う異常者は実際に存在する。だが、そんな人間が毒を使って人を殺すだろうか?
例えば、芸術を極めようとして人を殺す悪魔も存在する。
そんな人間が、どうして人を生き埋めにしよう?
しかし、共通している部分もある。それは――殺されたのが、来年ランドに入る事が決まっていた若き才能という部分。
もちろん、殺された面々の全てがその街に住んでいる訳ではない。
しかし、その遺体が発見されたのは、全てその街――殺された中の少女の一人は、グラバラスの人間ですらなかったというのに。
「……正直、確証はねぇが……その全てに『玩具屋』が関わってるとは考えにくい」
「ほぉ」
「『玩具屋』は届かないものに夢見すぎて、壊れちまったのは間違いねぇよ。だけど、こんな真似……まるで、スタージャを挑発するような真似だけはしないだろう」
「……殺人鬼は一人じゃない、って話か」
「ああ、少なくとも三人……それもランドに恨みを持ったような奴が、手を組んでても可笑しくない……『玩具屋』もそいつ等に見初められてのかもな」
渋い顔で煙草を揉み消し、『霊界師』はそう言って肩を回した。
彼としては、こんな尋問めいた問答などさっさと切り上げたいのだろう。レンの視線から逃れるようにして、男は席を立つ。
「言っておくが、俺は関わっちゃいねぇぞ? 痛くもない腹摩られても、不快なだけだからよ」
「……ああ、悪かったな」
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