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視線の色にあるのは、彼女に周囲が向けていたものと同じ羨望。
そこには異性としての好機も含まれていたが、大きく占められていたのは純粋にサーミャの実力へのものだった。
サーミャも自分と同じ特待生なのだから、実力があるのは間違いない。
だが、ラストも並の特待生を遥かに凌ぐ力を持っているのだ。そして、かつては常識として数えられ――今では、それが世界でも有数となってしまった才能も。
それでも尚。そうだとしても、尚――ラストは本当の意味で、サーミャの背中が見えない気がした。
何度も、模擬戦でぶつかりあった事はある。
模擬戦だけならば、ラストはサーミャに勝ち越している程だった。だが、一定のレベルに達しているラストだからこそ、感じる違和感。
――勘、とでも言えばいいのか。
――あんなもんじゃない。とっさの切り返し……何より魔法の錬度は、あんなもんじゃないって……何となくだけど分かる。
「お前だって退屈なんだろ? サーミャ、お前がここを好きなのは、同年代の人間と戯れる事が出来るから……じゃないのか?」
核心を突く独り言を紡ぎ、ラストは自分の部屋へと歩んでいく。
まだ頭上に燦々と太陽が輝く時間帯であるが、学ぶ事はないとばかりに、たった一人で。
時折、授業に遅れそうなのか、駆け足でラストと擦れ違う生徒もいたのだが、誰一人として彼に視線を投げかけない。まるで、ラストを腫れ物であるかのように、見向きもしなかった。
――やっぱり、俺がいるべき所はここじゃない。
ラストもそんな扱いに慣れているのか、舌打ち一つしない。
――先生、俺は目指すよ。あんたのように、強くなる。
――そして……スタージャの一位を取る。それこそが、最強の証明だろ? 先生。
貴族。復讐者。転生者。そして――悪。
彼等が互いの誇りを懸け、賭け、駆け抜けた物語。
今では欠けてしまったピース達が織り成した物語。
悪は死に、転生者は元の世界に戻り――復讐者は己の愛を貫き、貴族は深い眠りへと就いたその物語から、三年。
これは弱者の物語。
再び集結する四人に翻弄され、敗れ、恐怖し――足掻き続ける弱者の物語。
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