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部屋から出て行く背中を、レンは追う事をしなかった。
どうにも嘘を言っているようには思えなかったし、仮に何かを隠していたところでヌルの前では無意味だろう。
――……それより。
一向に目覚める気配は、『玩具屋』からは見られなかった。
あれだけの傷を受けた身だ。いきなり意識を取り戻せという方が、無茶なことなのかもしれない。
――……先を越されちまったな。
レンは、顔を渋くさせながら思う。本来なら、自分が『玩具屋』に直接話を聞くはずだったのだ。それをラストが先を越す形で、『玩具屋』を倒してしまうとは。
――ヌルが関わったってランから聞いたが、あの野郎、まだ何か企んでやがるのか?
――いや、『玩具屋』を倒したとなりゃ、それなりの箔は付く……邪推か?
否。レンは己の思考を両断し、虚空を睨みつけた。
あの男を警戒するのは当然だ。何しろ、アレはソラという悪魔と対等に渡り合った怪物なのだから。
そして、青年にもう一つの懸念が生じていたのも、また事実である。
殺人鬼は一人ではない。その程度のことは、レンも十分に承知である。
しかし、問題はそこにない。真に気にかけることがあるとするなら、一体誰がその複数人のパイプ役をしたのか――その一点に尽きるだろう。
果たして、既知の数人が行ったものか。
あるいは組織的に行われた犯行か。そうだとしても、ランドの入学生となる筈だった子ども達を調べるなど、内部の人間でなければ不可能だ。
――ランドの教師になるのは、生半可な事じゃねぇ。
――自分だけの経歴だけじゃなく、家族や親戚のまで全部晒されるんだ……どこかの組織にかかわりを持った人間は絶対に弾き出される。
――だったら、何者かが教師と殺人鬼達のパイプを繋いだ筈だ……そいつが誰なのか……。
考えたところで、明確な答えは返ってこない。
それでも思考を巡らせるのは、彼なりに犠牲者を追悼しているからかもしれない。しかし、遂に脳の許容量を超えたのか、レンはがっつりと肩を落とした。
――……『狂虫王者』さんはどうせ教えてくれないだろうし……あの人は本当に、人間の命なんかどうでもよさそうだからなぁ……。
――ここは、あの人にでも助言頼んでみるか。
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