二章 魔神

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そう、この不可解な死体。これを最も不可思議とさせる所以は、その死因にある。 通常ならば、この手の死因は失血――もしくは、過度の激痛からのショック死が挙げられる。 問題は、この死体にそうした反応が全く見られない所にあった。 ――……この少女の死因……それは。 魂を直接抜き取られた。 もしくは――何者かに、その魂を喰らい尽くされた、か。 通常の医師ならば、原因不明の死と位置付ける死体からも、『霊界師』ならばあらゆる情報を抜き出せる。 例え、魂がもうここに残っていなくとも、魂が入っていた器から、それなりの情報は手に入るのだ。 だが、目前の死体からは読み取れなかった。いや、読み取れないなどという騒ぎではない。 その器――常人には届き得ぬ領域が、残滓すら残らぬ程に破壊されていたのだから。 『霊界師』は、そこに意図して踏み入れる事が出来るのは――自分だけだと思っていた。 例え、上位ランカーの規格外の怪物であろうと、方向性が全く違う力に届く事はないと。 しかし、現状はどうか。自分だけの領域だと思っていた空間が、何者かの手によって、無惨に汚されているのだ。 ――……一体、どうなってる。 正直なところ、自分だけの領域に踏み込まれた――という悔しさがない訳ではない。 寧ろ、魂の器をも喰らう力は『霊界師』にない事から、これを行った犯人は――その上に立っているだろう。 だが、男が真に気をかけているのは、誇りを汚された事などではなく、 ――この殺しを行った奴は、何故、こんな殺し方を……。 ――普通の医者が相手にしたら、まず死因の解明は不可能だ。 ――……まさか、俺の存在を知っているのか? これを行った殺人鬼集団は……。 考えられない話ではない。ランドの教師や、その情報を手に入れるような連中だ。 誰彼と見境なく門戸を広げているスタージャの情報など、ほとんどが筒抜けになっていると考えてもいい筈だ。 だが―― ――そんな事は、わざわざ俺にそういう相手がいる、と知らしめるだけだ。 ――そんな愚行、どうして犯す? それとも何だ……俺を即座に殺す準備なんて、もう出来ているとでもいうのか……?
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