241人が本棚に入れています
本棚に追加
そう、この不可解な死体。これを最も不可思議とさせる所以は、その死因にある。
通常ならば、この手の死因は失血――もしくは、過度の激痛からのショック死が挙げられる。
問題は、この死体にそうした反応が全く見られない所にあった。
――……この少女の死因……それは。
魂を直接抜き取られた。
もしくは――何者かに、その魂を喰らい尽くされた、か。
通常の医師ならば、原因不明の死と位置付ける死体からも、『霊界師』ならばあらゆる情報を抜き出せる。
例え、魂がもうここに残っていなくとも、魂が入っていた器から、それなりの情報は手に入るのだ。
だが、目前の死体からは読み取れなかった。いや、読み取れないなどという騒ぎではない。
その器――常人には届き得ぬ領域が、残滓すら残らぬ程に破壊されていたのだから。
『霊界師』は、そこに意図して踏み入れる事が出来るのは――自分だけだと思っていた。
例え、上位ランカーの規格外の怪物であろうと、方向性が全く違う力に届く事はないと。
しかし、現状はどうか。自分だけの領域だと思っていた空間が、何者かの手によって、無惨に汚されているのだ。
――……一体、どうなってる。
正直なところ、自分だけの領域に踏み込まれた――という悔しさがない訳ではない。
寧ろ、魂の器をも喰らう力は『霊界師』にない事から、これを行った犯人は――その上に立っているだろう。
だが、男が真に気をかけているのは、誇りを汚された事などではなく、
――この殺しを行った奴は、何故、こんな殺し方を……。
――普通の医者が相手にしたら、まず死因の解明は不可能だ。
――……まさか、俺の存在を知っているのか? これを行った殺人鬼集団は……。
考えられない話ではない。ランドの教師や、その情報を手に入れるような連中だ。
誰彼と見境なく門戸を広げているスタージャの情報など、ほとんどが筒抜けになっていると考えてもいい筈だ。
だが――
――そんな事は、わざわざ俺にそういう相手がいる、と知らしめるだけだ。
――そんな愚行、どうして犯す? それとも何だ……俺を即座に殺す準備なんて、もう出来ているとでもいうのか……?
最初のコメントを投稿しよう!