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「"それに、この怪物は僕が責任を持って処理しておくから。君は安心していいんだ、これはただの悪い夢だから"」
小さな子どもの口から紡がれているとは思えない言葉。その言葉の重圧たるや、『霊界師』の全身に冷や汗と震えが走り抜ける程だ。
滲み出る空気が場を支配し、単語の一つ一つが脳髄に刺青のように刻まれていく。
「"そうだ、そうだよ。夢なんだ、『霊界師』……君が心配するようなことは、何か疑問に思うような事は、何一つとして無かった"」
正しい。
何時しか男は思う。これだけの力のある言葉、何を疑う事があるのだろうか。
果たして、両親や恋人の言葉がここまで心に届いたことはあったか。
どれだけ真実を語られようが、ここまで納得できたことがあったか。
無い。無い。無い。無い無い無い無い無い無い無い無い無い無い――――……
――だから、これは正しいんだ。
ヌルの二枚舌から紡がれた呪詛は『霊界師』の思考だけでなく、記憶すらも改竄させた。
最後に少年は、とびきりの笑顔で歯を煌めかせ、問いかける。
ここから続く喜劇と惨劇を、誰よりも間近で楽しむ為に。
「"嘘じゃないよ?"」
☆☆☆
四時間後 ランド中央区
「付き合ってもらっちゃって悪かったわねぇ」
空が夕闇に染まろうとする中、きらびやかな灯が色めき始める街を闊歩する少女が二人。
その内の片方が、申し訳なさそうにチロリと舌を出した。
それでも、どこかおどけたようにも見えるのは、彼女に悪気がないからだろうか。しかし、もう一人の少女が見せたのは、その無礼さへの怒りではない。
寧ろ、舌を出した少女よりも――サーミャは楽しそうに微笑み返す。
「いえ、私も楽しかったです……それより、こんなに選んでもらって……ありがとうございます、サロウさん」
「いいのよ、私もサーミャちゃんには恋を叶えてもらって欲しいから……ね? ふふ」
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