二章 魔神

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にこやかに微笑みあう少女たちは思い返す。 この半日、サロウに振り回されるように様々な店を巡ったサーミャ。しかし、何もそれが迷惑だったのかと問われれば――そんな事はない。 寧ろ、彼女はこうした年頃の少女としての振る舞いに憧れていた節すらあった。 当然と言えば当然であるが、サーミャの所属するスタージャに同年代の少女は在籍していない。 いや、存在はしていたとしても、彼女の素性を知らない下のランクの人間か―――― この世の常識からかけ離れた怪物だけである。 だからこそ、今日のような平凡な女子通しの買い物というのは、サーミャにとって幸福以外のなにものでもない。 「……ところで、サーミャちゃんの好きな方って、どんな方なのかしらねぇ……?」 「…………ぅ」 「今日も色々と聞いたけど、上手くはぐらかされちゃったじゃない? どんな方なのかしら?」 どんな方―― その言葉に、僅かながらもサーミャは硬直する。 何といっても、彼女の想い人はあのレン・フォーリスである。次男坊であるとしても、フォーリス家という大貴族の息子であるに変わりはない。 その名前を、軽々と出していいだろうか。 否。自分のような――端から見れば、素性不明の人間が関わるには、フォーリスの名は敷居が高すぎる。 ――……でも、どんな方……か。 ――レンは……。 「えっと、名前とかは言えないんですけれど……意地悪ですね」 「意地悪……なの?」 「はい、その……凄く意地悪で、人の事からかって……横暴だったり……」 どう聞いても欠点でしかないような男の特徴を、それは楽しそうに紡ぐサーミャ。そんな少女を見つめながら、サロウは、やはりと思う。 サーミャは、ランドの中でここまで表情を崩した事はない。 幼さを残しながらも、完璧な美貌を誇るこの少女の事だ。言い寄る男など、片手どころか全ての指を駆使しても足りない程だろう。 それを片端から切っていったのが、サーミャの冷たい表情だった。 いや、冷たい所の騒ぎではない。まるで極寒の地に裸で置き去りにされたと錯覚する、肌を刺すような視線。 サロウも何度かランドのサーミャを見掛けた事はあったが、あれはまさにそう表現されるべき色だった。
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