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だが、今のサーミャが浮かべている表情は、まさに恋する乙女としか言い様がない。
今日付き合った買い物の品々も、自分の趣味云々ではなく、その意中の男の趣味を選んでいるように見受けられた。
やはり、それだけ――好きなのだろう。
故に、サロウがサーミャの意中の男に興味を惹くのは、当然の事なのかもしれない。
「それに……私が疲れてる時は、何気無くお茶を淹れてくれて……でも、その手前が私よりも数段上だからって……得意気に笑ったり、そういうところは子どもみたいなんですよ」
「ふふ、サーミャちゃん……本当にその人の事、好きなのねぇ?」
「……一方通行なんですけれどね」
「分からないわよ? ほら、今言っていたみたいに、その方も貴方の反応を窺って楽しんでるんでしょ? 案外、もう行けるんじゃないかしらねぇ」
愉しげに何かを思い出すようにして笑うサロウに、今度は逆にサーミャが目を輝かせる。
「その方も……ということは、サロウさんも同じように……意地悪する彼氏さんがいるんですか?」
「んー……、ふふ……どうなのかな、意地悪……しちゃうのは、私かもしれないわよ?」
「……あんまり、可哀想な事はしないであげて下さいね……」
サーミャから見ても、サロウはどこか余裕のある年上の女性といった風格が見受けられる。
年齢は一つしか違わないというのに、自分にはない曲線美。爬虫類を彷彿とさせる、艶やかな金の瞳。
亜人の血が混ざっているのは疑う余地もないが、その蠱惑を纏う空気は、サーミャには決して持ち得ないものである。
そんな彼女にからかわれるなど、同性のサーミャから見ても、哀れみを禁じ得ない。
その相手に同情しながら、少女は言葉を紡いだのだが――
「え?」
「……?」
返ってきたのは、真ん丸とした金の眼と呆けた声。
その意味が分からず、サーミャはどう答えるべきかと頭を悩ませたのだが、それより早くサロウは噴き出していた。
「ふふ……何だ、サーミャちゃん、気付いてなかったのね? 私の好きな子」
「……むぅ?」
「いいのよ、もしも被ってたら怖いと思っていたのだけれど……その様子じゃ、本当に違うみたい。私としては嬉しいことね」
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