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「……」
サロウの意味深な発言に暫く頭を悩ませていたサーミャであったが、成程自分と彼女の共通の知り合いがいるとすれば、あの男しかいないだろう。
しかし、どう答えるべきか。不穏な空気が、彼女の中を満たしていく。
サーミャがこれまでの色恋沙汰を楽しむ感情を遮ったのは、何もラストを気にかけたからではない。
寧ろ、その逆。サーミャは――困り果てていた。サロウにどう言えば、ラストを諦めさせる事が出来るのかと。
何しろ、自分はいずれ彼のことを――――
「……サーミャちゃん?」
「……あ、大丈夫ですよ? サロウさんの好きな方、いったい誰なのかな……と、考え込んでいまして」
「ふぅん……?」
余程、自分は冷たい表情を浮かべていたのかもしれない。
その証拠に、神妙そうに覗き込んできたサロウは、どこか釈然としない様子でいる。
――……私が隠密に向かない理由、何となく分かるかもしれない。
――とはいっても、ここで警戒させても……良い事は無い……か。
失態を恥じつつも、微妙な空気になりかけた現状をどう打破すべきか思考を巡らすサーミャ。
このまま軽く流しても良い話題ではあるが、警戒されて要らぬ妨害を受けるのも面倒だ。
元々、考えて戦う性分であった訳でもなく、こうしたやり取りに慣れていない。
かと言って、ここで会話の流れを変えるのも、サロウからすれば不自然極まりないだろう。
どうしたものかと、サーミャは心中で頭を抱えていたのだが――
「そういえばさ、サーミャちゃんにも色々教えてあげたじゃない? 私にも教えてよ……貴女の好きな方のこと」
「……え」
「ほぉら、意地悪なだけの人を、サーミャちゃんは好きにならないでしょう? 普通に良いところもあるんじゃないかな?」
「……良い、ところ……」
話題が移り変わったことを良しとしつつも、サーミャはレンを思い浮かべた。
恥ずかしい話ではあるが、惚れた弱味と言うべきか。少女から見れば、レンの欠点ですら、どこか可愛いとまで感じているので、良いところを挙げていてもキリはない。
しかし、敢えて述べるとするならば――――
「そうですね……」
サーミャは頬を染めながら、ただ一言。
「見えない場所で、頑張っちゃうところ……ですね」
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