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「三年前です、忘れもしません……僕がいない間、ロゼは死にました。あの時の事は、悔やんでも悔やみきれない……だからこそ、僕はスタージャを辞めた」
まるで昨夜起こった悲劇を語るように、金髪の男は眉をひそめて語る。
「もうそんな悲劇は繰り返したくない……ですが、僕が調査に行くという事は……ロゼの傍を離れるという事です」
「一緒に……グラバラスに来ればいいじゃないですか。俺のできる限りの援助はしますよ」
「それは当然。ですが、僕がいない間……誰がロゼを守るというのです? ライトさんの力は、僕を凌ぐかもしれません……しかし、あの人の戦い方でロゼを守れますか?」
「……無理、でしょう」
不可能だ――レンは時を待たずして、その結論に行き着く。自分の母親は、世界でも頂に位置する実力は誇っている。
だが、最強である事が、必ずしも最善かと問われると――そうとは限らない。
ライトが本気で殺しを行ったとするならば、護衛対象すらも巻き込むのは簡単に想像出来てしまう。
ならば必然、彼女の隣に立てる者は限られる。
例えば、目の前で重圧を放つこの男。微笑を崩さない笑顔の悪魔。
そして――
――……。
いや、今はそんなことはどうでもいい。必要なのは、この男の要望を――自分が完遂させることのみ。
己の覚悟に芯を据え、男の言葉を待つレン。
青年の瞳の力が増すに連れ、相対する男が放つ覇気も呼応するように湧き上がる。
「そうでしょう。ですので、ロゼを完璧に守れて……尚且つ迅速な対応と相応の実力を持つ人間が欲しい訳です。もしもそういった人材がいないのなら、今回の件は無かった事にしましょう」
「成程。ですが、クレアが来たなら……その話はどうなっていたんですか?」
「僕は知っていますよ。彼には、ロゼを守る力があるという事くらい」
柔和な笑みでレンの疑問を返す青年。
それでも瞳は笑っておらず、そこに映る自分は――猛りを抑えきれないとばかりに、犬歯を剥き出しにしていた。
「アイツが守れるかどうかはさておき……もっと適当な人材、俺は知っていますよ」
「ほぉ、その方は何処に?」
「貴方の目の前に!」
レンは強く大地を蹴り、遥か果てにいる怪物の領域へと突き進む。
その怪物の名は『魔神』。
かつて『英雄』と何度も刃を交えた――主人公の一人。
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