二章 魔神

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「三年前です、忘れもしません……僕がいない間、ロゼは死にました。あの時の事は、悔やんでも悔やみきれない……だからこそ、僕はスタージャを辞めた」 まるで昨夜起こった悲劇を語るように、金髪の男は眉をひそめて語る。 「もうそんな悲劇は繰り返したくない……ですが、僕が調査に行くという事は……ロゼの傍を離れるという事です」 「一緒に……グラバラスに来ればいいじゃないですか。俺のできる限りの援助はしますよ」 「それは当然。ですが、僕がいない間……誰がロゼを守るというのです? ライトさんの力は、僕を凌ぐかもしれません……しかし、あの人の戦い方でロゼを守れますか?」 「……無理、でしょう」 不可能だ――レンは時を待たずして、その結論に行き着く。自分の母親は、世界でも頂に位置する実力は誇っている。 だが、最強である事が、必ずしも最善かと問われると――そうとは限らない。 ライトが本気で殺しを行ったとするならば、護衛対象すらも巻き込むのは簡単に想像出来てしまう。 ならば必然、彼女の隣に立てる者は限られる。 例えば、目の前で重圧を放つこの男。微笑を崩さない笑顔の悪魔。 そして―― ――……。 いや、今はそんなことはどうでもいい。必要なのは、この男の要望を――自分が完遂させることのみ。 己の覚悟に芯を据え、男の言葉を待つレン。 青年の瞳の力が増すに連れ、相対する男が放つ覇気も呼応するように湧き上がる。 「そうでしょう。ですので、ロゼを完璧に守れて……尚且つ迅速な対応と相応の実力を持つ人間が欲しい訳です。もしもそういった人材がいないのなら、今回の件は無かった事にしましょう」 「成程。ですが、クレアが来たなら……その話はどうなっていたんですか?」 「僕は知っていますよ。彼には、ロゼを守る力があるという事くらい」 柔和な笑みでレンの疑問を返す青年。 それでも瞳は笑っておらず、そこに映る自分は――猛りを抑えきれないとばかりに、犬歯を剥き出しにしていた。 「アイツが守れるかどうかはさておき……もっと適当な人材、俺は知っていますよ」 「ほぉ、その方は何処に?」 「貴方の目の前に!」 レンは強く大地を蹴り、遥か果てにいる怪物の領域へと突き進む。 その怪物の名は『魔神』。 かつて『英雄』と何度も刃を交えた――主人公の一人。 ☆☆☆
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