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今でもたまに夢を見る――
それは懐かしい記憶。
いや、もしかしたら……この記憶は、私の妄想なのかもしれない。
妄想。
そう心の底から願った風景。それでも、私は別段……この風景が妄想であろうと、過去に現実で起こったものであろうと……気にする事はない。
私には、もう無いものなのだから。
決して手の届かない風景。
優しい母の顔。私には甘かった父の顔。そして、小さな弟と妹の笑顔。
そして知っている。
この夢の続きを、私は――知っている。
そして――
視界が明滅する。鼓膜が破裂したかのような無音が、私を包む。そして、世界が反転し――白と黒、ありとあらゆる色。
その全てが集約されて、私は私となった。
この――化物が。
力の全てを振りかざし、私を殺そうとした父が最期に吐いた言葉。
絶対に殺してやる。
絶対に殺す。私はお前を許さない、世界の敵であるお前だけは、いなくならなければならない!
私の首を絞めながら、歯を剥き出しにして母が放った言葉。
お前を殺せば、俺は英雄だ。
世界のために、生きとし生ける者のために、そして何より俺のために。
死んでくれないか? 化物。
私の最愛の恋人が醜い笑みを浮かべながら、私の元へ歩んでくる。
やっと……会えた。
ようやくだ。お前を殺す為だけに、僕たちは生き抜いてきた。
成長した弟と妹が私に放った言葉は、まさに怨念を纏っていた。
だけど……だけど。
私はもう、その時。その言葉を悲しいなんて思わずに、思えずに……ただただ嬉しいとだけ思えた。
私を殺してくれるから? 馬鹿な。
私を思ってくれるから? 確かに、それに近い感情なのかもしれない。でも、決定的に根本からずれている。
私に……悪意を向けるから?
違いない。
違いない。違いない。違いない。違いない。違う。違いない。違いない。違いない。違いない。
今日もまた、夢を見る。
まるで、私の中の■■が……その記憶を忘れさせまいとしているように。
でも、大丈夫。貴方の好きな光景は……きっとまた世界を埋め尽くすから。
また、あの夢を見る。
また、あの夢を見る。
また、あの夢を見る。
また、また、また、また、また――私が家族を殺す夢を見る。
★★★
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