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ランド 中央闘技場
サーミャとサロウが買い物に洒落こんでいる時も、少年は眉をひそめながらも、闘技場の周囲を歩き回っていた。
元は綺麗に切り揃えられた石柱の一本一本を、埋め込んだ形で出来たものなのだろうか。
半径は五十メートル以上はある――広大な面積を誇る架空の戦場を見つめ、ラストは思う。
だが、今の自分の視界に映る闘技場は、数多の傷跡が残されていた。
巨大な獣が抉り出したかのような、四本の跡が走る巨大な爪痕。
中央には、まるでそこで火山が爆発したかのような大穴が空いている。
その全てを造り出したのが、このラスト・アバズールだ。正確には、彼が呼び出した召還獣が織り成した惨劇。
しかし、その光景が彼の視界に映りこんでいたのは、僅か数秒に過ぎない。
闘技場自身が生きているかのように――まるで、人間の体細胞組織が傷口を治癒していくかのように、ラストが造り上げた惨劇が直っていったのだから。
――……相当な魔法が掛けられている。
――確かに、ここの闘技場は……ランドでも屈指の人間しか戦えない。馬鹿にならない整備代を毎回払うより、こうした魔法を掛けておくに限るか。
――……しかし、こうなると面倒だな。俺にしか分からない罠を張っておこうとも思っていたが、その罠すらも直しちまう。
これが彼の戦い方である。仮に実力で勝っていたとしても、こうした偵察は怠りはしない。張れる罠は張っておく。
それが自分よりも強大な人間が相手ならば、尚のことだ。
故に、ラストは心中の苦虫を噛み潰す。
自分の策略の一つが潰されたから――だけではない。寧ろ、問題はこれだけで済まないのだ。
「随分と暴れまわったなぁ!」
自分の苛立ちなどそしらぬとばかりに頭上から響く、陽気な大声。
「いやぁ、やっぱりお前、強いんだな! 流石、一年生だって言うのにクレアと戦えるだけはあるじゃないか!」
――……うるさい男だな。
表情には出さないものの、苛立ちを視線だけに交えながら――ラストは観客席の一端を睨み付けた。
そこにいたのは、自分よりも大柄な茶髪の青年。
背格好からして、年齢が上だとは判断できるが――子どもが放つような大声からは、それよりも幼い印象を受ける。
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