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――煩わしいな……。
ラストが忌々しげに見つめる男の名は――グロム・フローレン。
クレア・フォーリスの意味深な呟きから、既に一週間は経っただろうか。
彼の言葉が示したように、大規模な模擬戦――最早、大会と称しても過言ではない催しが行われると告げられたのは、直ぐの事であった。
とはいえ、流石にあれだけの些事で大会が行われると決定したとは考えにくい。ならば、クレアは生徒会長としての権限で、情報を得ていたのだろう。
そして、その大会行事の中でも注目を集めたのが――自分とクレアの戦闘。
稀代の新入生として扱われている自分と、ランドでも最強と名高いクレアとの勝負だ。成程、凡人ならば目を輝かせてもおかしくない組み合わせだ。
それだけでなく、普段の模擬戦とは違い――外部の上客も招くらしい。
ならば、若き原石達の鍛練の成果を見せるにも、これだけの判断材料は無い筈である。
だが。
それだけに、ラストの戦い方は――どうにもやりにくい。
衆人環視の前で見せるには、ラストの戦い方は――どうにも受け入れがたいものがあるのは、自分でも理解していることだ。
尤も、彼自身は――自分を取り巻く生徒達の視線など、どうでもいいとまで思っているのだが。
しかし、問題は――外部からの客。
取り分け、スタージャから来るであろう客と、貴族達の客だ。
仮に、自分の計略にクレアがまんまと掛かったとしたなら、勝利は揺るがない。
が、それで果たして、スタージャやフォーリス家と縁の深い貴族の面々が、納得するだろうか。
ゆくゆくは、スタージャで上り詰めていこうという野望を持つラスト。
ここで妙な反感を買うのは、あまりにも先を見据えてなさすぎる。
そう思いながらも、何とか気付かれないような細工を掛けられないかと、ラストは闘技場を散策したのだが――
そこで出会ったのが、この男という訳だ。
どれだけ睨み付け、観察しても――この男に見覚えはなかった。
この闘技場は、ランドの敷地内だ。全く無関係な人間が、立ち入れる空間ではない。
ならば、ここの卒業生だろうか――と、特に気にもしなかったラスト。
それでも、男が軽々しい口調でクレアという名を出した瞬間、少年の瞳が細くなった。
――……先手を取られてた、か?
――まさかとは思うが、俺が何かを細工すると読んで、監視役でも付けてたのか?
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