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伊織と一緒に七夕祭りに行きたい。
書いたばかりの短冊を眺め、私は我ながら馬鹿なことを書いたものだと苦笑する。
伊織に見られたら、もっと叶いそうな願い事を書けばいいのに、なんて笑われそうだが、生憎短冊ごときで願いが叶うなんて信じられる程私は子供ではない。
「────星奈」
その時耳に届いた、聞き慣れたその声。私は反射的に振り返る。
そこには七夕祭りを行き交う人々の姿があるだけで、声の主の姿はない。
……当然だ。伊織は、先月死んだんだから。
当たり前のように「また明日」なんて言って、その日のうちにその言葉を嘘に変えてしまった。
それなのに、私は伊織が今この場にいるという妙な確信を得てしまった。
「一緒にって、そうじゃないよ。…ばーか」
私の願いは、望んでいた形ではなくとも、叶ってしまったのだ。
叶えてくれたのは織姫か、彦星だろうか。それとも──伊織なのだろうか。
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