5人が本棚に入れています
本棚に追加
迷宮(ダンジョン)――世界各地に存在する巨大な建造物。一体いつ、誰が、何の為に造ったのか未だに謎である。分かっているのは、迷宮内には大量のモンスターが生息している事、そして最深部には山の様な金銀財宝が眠っているという事だけだ。
そんな迷宮に、夢とロマン――そしてお宝を求め、己の人生を賭けて挑む者達がいた。 彼らを人々はこう呼んだ――『トレジャーハンター』と。
◇◇◇
「……まじ?」
「申し訳ありません……大変人気なものでして……」
巨大迷宮『バベル』。そこから一番近い町カルカッタは、人口が三万人程度の小さな港町だ。しかし、毎日多くの船が行き交うこのカルカッタは、常に観光客や冒険者達で溢れかえっており、とても活気づいている。
そんな町でも、特に賑わいを見せている市場にあるクレープ屋の前に、一人の少年が青ざめた顔で立っていた。
「ほ、ほんとに……売り切れ?」
「はい、ほんの数分前に完売しました」
「そ、そんな……」
悲痛な顔を浮かべながら膝をつく少年から、ガーンという効果音が聞こえてきそうだった。
クレープ屋の前で落ち込んでいるこの少年の名はラウル・ドレーク。赤みがかった茶髪、白いシャツに黒いズボン、右手にだけ付けられた黒い手袋と一見するとどこにでもいそうな少年だが、腰に携えた短剣を見れば、ただの観光客ではないことが容易に想像がつくだろう。最も今のラウルの姿を見て、彼が冒険者だとは誰も思わないだろうが――。
カルカッタの市場にあるクレープ屋の看板商品『ベリースペシャル』は、かなり美味しいと巷では有名で、グルメ雑誌にも掲載されたほどだ。開店と同時に売り切れるとまで言われる商品であり、まさに幻のスイーツである。もちろんラウルもカルカッタを訪れたら必ず食べようと、ずっと楽しみにしていたのだが――。
「いざ来てみれば、長い行列……開店の三時間前でこの有様なんて……完全に舐めてた」
三時間前なら大丈夫だろうという、甘い考えが完全に失敗だった。結局、クレープ屋の前で苦い思いをする羽目になってしまった。
最初のコメントを投稿しよう!