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「俺はなんて愚かなんだ……この日のために、クレープが美味しく食べられる様に景色の良いベストプレイスまで念入りに調べてきたのにッ! こんな事なら、寄り道してプリンなんて買わなきゃ良かった……!」
ラウルは涙をグッと堪え、拳を地面に叩きつけた。
「……それで、お客様……いかがなさいますか?」
引き攣った笑みを浮かべた店員に言われ、ラウルは顔をばっと上げた。
「他のやつ、ください」
◇◇◇
結局、お目当てとは違うものを買ったラウルは、どこか落ち着いて食べられる場所はないかとぶらぶら当てもなく歩いていると、大きな噴水のある公園にたどり着いた。
「お、ここいいじゃん――ん?」
近くのベンチに座ろうとした時、何やら人が集まっているのが目に入った。
気になったラウルは人混みを掻き分けて、輪の中心に目をやる。
「――おいクソガキッ! テメェのせいで俺のズボンにクリームが付いちまったじゃねーか! どーしてくれんだァッ?」
そこにいたのは、ガタイの良い男と小さな女の子だった。女の子の手にはクレープが握られており、恐らく男とぶつかってしまったのだろう、男のズボンにはべったりと生クリームが付いていた。
「う……うぅ……」
女の子は恐怖のあまり泣き出し、言葉が出てこないようだった。
「このガキ……泣いて済むと思ったら大間違いだぞッ!」
そう言って、男が拳を振りかぶった瞬間――
「待って!」
人混みを掻き分けて現れたのは、一人の少年だった。少年は、女の子を庇うようにして男に立ちはだかる。
「何だテメェは? 邪魔すんじゃねーよ!」
「こんな小さい女の子に対して暴力なんて……恥ずかしくないのか?」
「うるせぇッ! これもガキの教育の一つなんだよ! 文句があるならテメェも一緒に教育してやるッ!」
そう言って、再び男が拳を振りかぶる。
「――まぁまぁ、皆さん落ち着いて」
パンパンと手を叩いて、ラウルは少年と男の間に割り込む。
「今度はなんなんだ!?」
誰とも知らない奴に二度も邪魔され、男は憤慨する。
ラウルは男に近づき、ポケットから銀貨を数枚取り出した。
「今回はこれで見逃してよ。――お互い、穏便に済ませたいでしょ?」
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