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ラウルは周囲に視線を向ける。先ほどよりも野次馬が集まってきている事に、男も気づいたようだ。
「――フンッ」
男はラウルから銀貨をひったくると、どこかへ歩いていった。
野次馬も散開していく中、未だに嗚咽を漏らす女の子を見兼ねたラウルは、しゃがんで目線を合わせる。
「ほら、これやるからもう泣くな」
そう言って差し出したのは、ラウルが先ほど買ったクレープだった。女の子が持っているクレープは、ほとんどクリームが地面に落ち、食べられそうになかった。
「……うん!」
女の子は涙を拭き、元気よく返事をした。
「ありがとう、お兄ちゃん!」
「もう人にぶつかったりすんなよ」
ラウルから受け取ったクレープを手に、嬉しそうに走っていく女の子を見送った。
「あ、あの!」
そんなラウルに、先ほどの少年が声をかけた。
「さっきは……ありがとう。おかげで助かったよ」
「あーいう奴に正論ぶつけんのは、逆効果だ。適当に合わせとくのが一番いいんだよ。――まぁ、女の子を助けようとしたのはお前だけだったし、その勇気は誇りに思っていいんじゃないかな」
それだけ伝えると、ラウルは背を向けて歩き出す。
「あ、ま、待って!」
少年は再びラウルを呼び止める。少年の意図が分からないラウルは首をかしげる。
「お礼がしたいんだ! さっきから君が損してばかりだから……」
「俺は別に……気にしてないぞ?」
「い、いいから! ボクの気が済まないッ!」
「え、ちょっ!?」
少年はラウルの腕を強引に掴むと、どこかへ歩き出した。
◇◇◇
ラウルは、少年に連れられてとある食事処へ入った。
二人は空いている席につく。
「ボクの奢りだから、遠慮しなくていいよ」
「ほんとか!? 実は俺、さっきからずーっとお腹鳴りっぱなしだったんだよ」
注文を終えると、最初にラウルが口を開いた。
「そーいや、自己紹介がまだだったな。俺はラウル。ラウル・ドレークだ、よろしく」
「うん、よろしく。ボクはアン――」
「アン?」
「アランだよ。ただのアランだ」
「おう、よろしくなアラン」
そして二人は握手を交わす。
アランと名乗った少年は鮮やかな金髪に透き通った綺麗な碧眼。女性と見紛う綺麗な顔立ちをしていた。
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