十一

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「しょうがないだろう、溜まってたんだから。俺はまだまだ足りないんだよ、お前が」  甘い囁きがまた覚馬を誘惑する。  簡単に誘惑されてしまう覚馬は蝶にでもなった気分で、ふらふらとその蜜に溺れにいくのだろう。 「傷口開いても知らないからね」 「ああ。お前を抱けるなら傷口なんて開いたっていい。その痛みの中に覚馬を刻みつけるんだ」  なんて気障ったらしいセリフ。  そんな言葉は自分だけにしか言って欲しくないと思った。 「嘘は嫌だからね」 「嘘?」 「男は僕が初めてだったっていう嘘」 「嘘じゃない。男はお前が初めてだ」 「じゃあ戸田山は?」 「戸田山? 戸田山がなんか言ったのか? 俺は嘘なんて言ってない。戸田山とは身体の関係どころか仕事上での付き合いしかないぞ」  戸田山の言葉を思い出す。 『あの人のあんなところもこんなところも知ってるなんて思ってないよね?』  あの言葉ははったりだったのだ。  あのとき戸田山は形勢逆転を狙ってあんなことを言い、覚馬の反応を窺ったのかもしれない。   「覚馬、何を言われたんだ」 「ううん、なんにも。僕の勘違いだったみたい」  一彰に抱きつきながらほっとしている自分に気づいた。  もう何も考えない。何も憂うことはないのだ、父親のこと以外は。  納得しきれないといった顔をしていた一彰だったが、覚馬が腰をくねらせながら唇を啄めばすぐに深いキスを求めてきた。  一彰の白濁で泡立つそこがいやらしい音を立て始める。  後悔するかもしれない。  それでもこのまま突き進むことが正しいことのように、覚馬と一彰は身体を繋ぎ続けた。                【終】
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