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着替え終わると陽一とともにバックヤードを出る。隣に並ぶ陽一は人懐っこい笑顔を浮かべながら、覚馬がくるまでの間に店であった出来事を話して聞かせてくれていた。
「いらっしゃいませ」
ウェイターとして店に出ている覚馬は、来店した客の顔を見るなり憂鬱になった。それというのも、その客には少し困っていたからだ。
「あっ、今日は甘実くんいた! もう昨日もきたのにいないんだものぉ」
男特有の野太い声に大きな身体。女性のような話し方をしながら覚馬に近づいてくるのは、オカマバーへ出勤前のおねえさんだ。
「今日こそはきてくれるわよね」
席に案内し着席した途端腕を取られ、おねだりよろしく上目遣い攻撃。覚馬が困っているのを重々承知の上での行動だ。
「いや、あのっ、僕……」
「何も心配はいらないって。ほんとお店にきてくれるだけでいいんだから。可愛い子がいるって言っちゃったんだものぉ。社会勉強だと思って、ね?」
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