人に愛

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「短冊の”仲良くしないように”って、バンドの大越のこと?」 「大越さんっていうの? 大人っぽくて綺麗な人だよね。胸が大きくて」 「興味ない。仲良くなんかしてないぞ? 来てもらった手前、適当に話合わせて笑ってただけ」 「そうなの? 私、自分が子どもっぽいから僻んじゃった」 「他の奴には七瀬は子どもっぽく見えるだろうけど、俺には違うから」 お兄ちゃんの目が真剣で、逃げ出したくなる。 「今日だって、浴衣姿の七瀬が色っぽくてドキドキしっぱなしだし」 お兄ちゃんの指がそっと頬を撫でた。 「俺が毎日、ここに来ても靴を脱がないのは、おまえを襲わないように自制するため。胸の大きさなんて関係ない。俺にとって女はこの世でおまえだけだから」 「ホントに?」 「今だって触りたいのを我慢してる」 「我慢しなくてもいいのに」 私の呟きにお兄ちゃんはなぜかガックリと項垂れた。 「おまえは! 人がどれだけ……」 「だって、お兄ちゃん、私をお嫁さんにしてくれるんでしょ?」 さっき、香音ちゃんにはっきりそう言ってくれて、私、死ぬほど嬉しかったんだよ。 「うん。ばあちゃんの喪が明けるまでは待つつもりだったけど。ばあちゃんなら、早く結婚しろって言いそうだな。ボヤボヤしてると他の男に取られちゃうよって」 「うん、言いそう」 「だから、七瀬。俺の願いを叶えてくれないか」 毎年、お兄ちゃんが短冊に書くのは私のことばかりだった。 『七瀬の風邪が早く治りますように』 『七瀬の成績が上がって同じ高校に入れますように』 さっき、お兄ちゃんが書いていた願い事は何だったんだろう。 「私に叶えられること?」 「おまえにしか叶えられないこと。『七瀬と結ばれて、ずっと一緒にいられますように』。叶えてくれる?」 「うん。それが私の願いだから」 ゆっくりと二人の唇が重なって、お兄ちゃんは靴を脱いだ。 END
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