201人が本棚に入れています
本棚に追加
「まず、この短冊に願い事を書くんだよ。それを笹に結んだらお菓子をあげるからね」
お兄ちゃんが短冊とペンを渡しながら説明してくれたのは、私が泣きそうになっていたのをわかっているからだろう。
「字、書ける?」
「うーん。おじさん書いて」
香音ちゃんに短冊とペンを突き返されたお兄ちゃんは、『おじさん』と言われたことにショックを受けているようだ。
お兄ちゃんは二十四歳にしては落ち着いて見えるから、香音ちゃんから見たら十分『おじさん』だろう。
子どもからしたら三十歳の牛島さんとお兄ちゃんはきっと大差ないのだろう。
「じゃあ、書いてあげるから、願い事を言って」
気を取り直したお兄ちゃんがペンを構えて香音ちゃんの言葉を待つ。
なんだかいいお父さんになりそう。
あれ? そういえば、牛島さんはどこだろう。
そう思ってキョロキョロしたら、ビンゴゲームの準備をしている牛島さんが見えた。
そうか。この演奏が終わったら、ビンゴだ。
「七瀬ちゃんが香音のママになってくれますように」
「え?」
キッパリ言い切った香音ちゃんに、お兄ちゃんはビックリしたようだ。
子どもっぽい私がママだなんて柄じゃないもんね。
「早く書いて」
香音ちゃんが無邪気に急かすから、私が代わりに書こうかとペンに手を伸ばした。
「そのお願いは叶えられないから、別のを書こうか」
お兄ちゃんがそんなことを言って、私をチラッと見た。
「なんで? パパもそうなるといいねって言ってたよ」
口を尖らせて文句を言う香音ちゃんに、ムッとしたような顔のお兄ちゃん。
私はハラハラして見ているしかできない。
「七瀬はお兄ちゃんのお嫁さんになるんだ。だから、香音ちゃんのママにはなれないんだよ」
最初のコメントを投稿しよう!