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「七瀬ちゃん、笹、こっちでいい?」
「あ、そっちじゃなくて」
慌てて駆け寄って、ここに置いてくださいとお願いする。
今日は、第二団地の七夕祭りだ。
団地のはずれには貯水池があって、その周りは鬱蒼と木が生い茂っている。
子どもの頃は『森』と呼んで、木にロープを結んでターザンごっこをした。
もちろん、お兄ちゃんと。
あの頃はこんなに下草がなかったのに、今では手入れがされていないのか『森』に入ることも困難なほど草ボーボーだ。
でも、その『森』の入口の『月見台』はきれいに整備されている。
今日はここで七夕イベントが開催される。
短冊を書いてくれた子どもたちにはお菓子を配って。
大人たち向けにはビンゴゲームやロックバンドの演奏もある。
毎年、細々と続いているイベントだけど、私も子どもの頃は楽しみにしていた。
「ご苦労様。ちょっと休憩しようか」
みんなにそう声を掛けたのは、評議委員の牛島さん。
日に焼けた顔からは汗が噴き出しているのに、爽やかに見えてしまうのはイケメンだからかな。
みんなにお茶を配っているけど、あれは牛島さんのポケットマネーから出ているものだ。
そういう気配りができるのって、さすがだなと思う。
「はい、七瀬ちゃん」
牛島さんがペットボトルのお茶を私に差し出してくれた。
「あ、ありがとうございます!」
「七瀬ちゃんって呼んでもいい? みんな、そう呼んでるから」
私の隣に座った牛島さんはタオルで汗を拭きながら聞いてきた。
「はい、どうぞ」
七夕祭りの実行委員は評議委員と階段委員で構成されている。
評議委員は各棟一名だから十二人。階段委員は各階段に一人だから、一棟当たり五人。
でも、その全員が協力できるわけじゃないし、今日、仕事で参加できない人は事前準備に協力している。
平日のお昼からセッティングできるのは、お年寄りがほとんどだ。
そして、生まれた時からこの団地に住んでいる私は、そんな年配の人たちからすると孫のようなもので、みんな『七瀬ちゃん』と呼んでかわいがってくれている。
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