天に星

3/4
197人が本棚に入れています
本棚に追加
/14ページ
ここ数年の間に入居したような若い夫婦たちは、あまり自治会の行事に参加しようとしない。 階段委員などの持ち回りの役に付くことも嫌がるし、極端な人は自治会への加入も拒否する。 自治会費を払いたくない、役員の仕事が面倒だというのがその理由だ。 だから、今日の七夕祭りには、そういう若い世代やその子どもたちにもっと地域に溶け込んでもらおうという狙いもある。 牛島さんはその牽引役だ。 六号棟の評議委員を務める牛島さんは、五歳の娘さんを男手一つで育てている。 若い世代だけど、自治会活動には積極的に参加している。 娘の香音(かのん)ちゃんを団地内の保育所に預けているので、同じ保育所に通う子の親たちとの橋渡し役を期待されているのだ。 みんなが月見台のコンクリートのベンチに座ってお茶を飲みだした。 なぜか牛島さんと私のベンチの近くには誰も座ろうとしないので、居心地が悪い。 男の人と一対一で話すのは緊張してしまう。 お客さんと話すのはだいぶ慣れてきたんだけどな。 「実は七瀬ちゃんのこと、高校生かと思ってたんだ」 「一応、社会人です」 童顔で小柄だから、下手すると中学生に間違われることもある。 今どきの中学生は顔も身体も大人っぽい。 私なんて胸もぺったんこだし、小学生並みの幼さだ。 「美容師さんなんでしょ? 凄いね。手に職持ってて」 そう言われたら、悪い気はしない。 「まだまだ修行中の身です」 「美容師さんって、浴衣の着付けもできる? 今日、香音が浴衣着たいって言い出したんだけど、僕は着せ方がわからなくて」 最近の若いお母さんは自分でも浴衣を着られないし、娘にも着せられないという人が結構いて、この時期は着付けのお客さんが多い。 私はおばあちゃんに育てられたから、浴衣は自分で着られたけど、美容師になってから着付けの資格も取った。 「じゃあ、良かったら私が香音ちゃんに着せてあげますよ。髪も結ったほうがかわいいし」 「いいの? 助かるなぁ。美容院に連れていく時間なんてなさそうだから、諦めさせようかと思ってたんだ」 「かわいそうですよ。浴衣あるなら、着せてあげないと」 どんなに小さくても女の子はやっぱり女の子だ。 他の子が浴衣を着ているのを見たら、絶対自分も着たくなる。
/14ページ

最初のコメントを投稿しよう!