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「はい、出来上がり。とってもかわいいよ」
「わあー! かわいいー!」
香音ちゃんが鏡を見て大喜びしている。
お父さんに似てお目々パッチリの美人さんだから、お世辞抜きでかわいい。
「良かったな。七瀬ちゃん、ありがとう」
「ありがとう!」
「いえいえ、どういたしまして」
美容師をしていて良かったなと思う瞬間だ。
お客さんの顔がパッと明るくなって感謝される。
「本当にお金はいいの?」
牛島さんが申し訳なさそうに聞いた。
「いりません。お客さんじゃなくてお友だちだから。ね!」
そう言って、腰を落として香音ちゃんと目線の高さを合わせた。
香音ちゃんとは今日、初めて話をしたけど、着付けと髪のセットをしている間にすっかり打ち解けてくれた。
だから、『お友だち』という言葉を使ったのに、香音ちゃんは不満そうに口を尖らせた。
「えー! 七瀬ちゃんはお友だちじゃなくてママになってほしい」
香音ちゃんのママは不倫相手の子供を身籠って、牛島さんと香音ちゃんを捨てたというのがもっぱらの噂だ。
こんな子煩悩でイケメンなご主人とかわいい娘がいるのに、なんで不倫なんかしたのか不思議でならない。
私は生まれてすぐに両親を亡くしているので、突然ママがいなくなってしまった香音ちゃんの気持ちはよくわからない。
ただ、他の子のお母さんを見て羨ましいと思ったことは何度もある。
おばあちゃんは愛情たっぷりに育ててくれたけど、やっぱり『お母さん』とは違うんだろうなと思ったから。
そんな遠い記憶を蘇らせながら、香音ちゃんと手を繋いで歩いた。
反対側には牛島さん。
残念ながら、親子三人で歩いているようには見えないだろう。
私が子どもっぽいから。
香音ちゃんのお姉さんと言うには年上すぎるけど。
牛島さんも私も会場のセッティングが心配で、少し早めに月見台に着いた。
「あ……」
私の口から思わず声が漏れたのは、お兄ちゃんがいたから。
仕事、早く上がれたんだ。
でも、なんで女の人と一緒なの?
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