地に花

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「ムカついてる。わかるか?」 牛島親子から離れると、すぐにお兄ちゃんが突っかかってきた。 「わかるよ。どうしたの?」 お兄ちゃんがご機嫌斜めなことぐらいわかる。でも、その理由まではわからない。 「なんで牛島と来たんだよ。手なんか繋いで」 「香音ちゃんの着付けを頼まれたから。あ、香音ちゃんってお母さんがいなくて」 「知ってる。奥さん寝取られた上に子どもまでできて逃げられたんだろ?」 さすが、東条のおばさん。 噂をしっかり息子の耳にも入れている。 「それが本当かはわからないけど。で、浴衣着たいって言うから着せてあげたの」 「牛島の家で?」 「うん」 「そんな浴衣で、男の家に上がり込んだのか? 危機感ゼロだな」 お兄ちゃんの怒りが伝わってきて、涙が滲んできた。 「なんで? 香音ちゃんもいたんだよ? ”そんな浴衣”ってどういう意味?」 何がいけなかったのか全然わからない。 もうなんでこうなっちゃうの? 『浴衣、似合うな』ってお兄ちゃんに言ってほしかったのに。 今日、来られるかわからなかったけど、会えたらいいなと思ってたのに。 「泣くなよ」 「泣いてない」 お菓子の段ボールを開けながら、唇を噛みしめて涙を堪えた。 こんなことで泣くから、いつまでも子ども扱いされるんだ。 「浴衣の下、ノーブラでショーツだけだろ?」 思わずお兄ちゃんの顔を見上げた。 なんで知ってるの? ていうか、お兄ちゃんの口から『ノーブラ』とか『ショーツ』なんて言葉が出たの、初めて聞いた。 「そんな無防備な格好で密室に男と一緒にいるなんて危ないと思わなかったのか? 娘を外に遊びに行かせれば二人きりなんだぞ?」 牛島さんがそんな酷いことをするような人には思えない。 でも、用心が足りなかったのは事実だ。 「ごめんなさい」 「親子みたいに歩いてきたおまえを見て、俺がどれだけムカついたか」 「ごめんなさい」 確かに、お兄ちゃんが他の女の人とその子どもと三人で手を繋いでいたら、すごく嫌かもしれない。 ううん。絶対嫌だ。
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