地に花

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「おまえは俺のものなんだから、俺、理不尽なこと言ってないよな?」 ちょっと探るように聞いてきた。 赤ちゃんの頃からの付き合いだけど、恋人になったのはつい最近だから、お互いに距離感が掴めないことがある。 「うん。私が考えが足りなかった。嫌な思いをさせてごめんなさい」 「俺以外の男と見つめあうのも、『七瀬ちゃん』なんて馴れ馴れしく呼ばれるのも気に食わない」 「でも」 団地のおじさんたちはみんな『七瀬ちゃん』って呼ぶのに。 そう言おうとしたら、マイクの音がスピーカーから聞こえてきた。 「お待たせしました。ただいまから、七夕祭りを始めます!」 自治会長の挨拶はとても短かくて、すぐにバンドの紹介が始まった。 『スターライト』というそのバンドは私も知っているCMの曲で有名なバンドだったらしい。 一曲目がその曲だった。 子どもたちは演奏にはほとんど興味がないようだ。 大きな音にビックリして耳を塞ぎながら、一斉に短冊を書きに来る。 短冊を笹に結び付けた子に、私とお兄ちゃんとでお菓子を渡していく。 うまく結べない子には手を貸してあげた。 『泳げるようになりますように』 『お姉ちゃんが優しくなりますように』 『赤ちゃんが無事に生まれますように』 『喘息が治りますように』 子どもたちの願いは千差万別だ。 「おまえも書いたら?」 子どもたちの波が途切れたら、お兄ちゃんがニヤッとした。 また子ども扱いして! でも。ちょっとお願いしたい気分だ。 お兄ちゃんに見られないように、短冊に願い事を書いた。 「上の方に結んでやる」 当たり前のように差し出された手に、短冊を乗せることなど出来ない。 「いい。見られるの恥ずかしいから」 「だから、上の方につけてやるよ」 「お兄ちゃんに見られたくないの」 私の言葉にお兄ちゃんが固まってしまった。 反抗期を迎えた娘にショックを受けた父親みたい。 「なんて書いたんだよ?」 「教えない」 やっぱり書かなきゃ良かった。それか、お兄ちゃんに気づかれないように書けば良かった。 「胸が大きくなりますように?」 「違います!」 思いっきりお兄ちゃんを睨み付けた。それって、中三の時に私が書いたのだ。 これだから、幼なじみってやつは!
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