星まつり

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メール送信しちゃった ははは。なんて呆気ないんだろう 『さよなら』 陳腐な別れ言葉を自分が使う日がくるなんて思ってもいなかったよ そして、気の小さな私は 輝を着拒した これでいい 加賀美人を連れてかえってくる頃には きっと笑って挨拶できるはずだから だから 今だけ許して 輝… さよなら。輝 ……………………………………… 七夕婚活の会場は この辺りで一番大きなカメリアホテルの鳳凰の間でおこなわれていた 入り口には大きな笹が飾られ キレイな七夕飾りで彩られている 「キレイ…」 ハートや星型の短冊を渡され みんなそれぞれに願い事を書くのだそうな ハート型の短冊を前に 私は何も書けずに固まっていた 昔はなんて書いてたんだっけ? 『てるくんのおよめさんになれますように』 小さな輝と一緒に短冊を枝に結びつけた 輝はどんな願い事を書いていたんだろうか 今となっては遠い思い出だけど 「先輩、書けましたか?」 淡いピンクのワンピースに身を包んだ菜穂ちゃんが私に歩み寄ってきた 「うーん。悩んでる 菜穂ちゃんはもう書いちゃったの?」 「はい! “素敵な旦那サマ求ム”って書きました」 「すぐに叶いそうね」 「だといーんですけど」 エヘヘと可愛く笑い彼女は会場の中へ消えていった どんなに考えても 今日書きたい願い事は 一つだけ 書くことを躊躇っていたけど 心を落ち着かせ 筆を走らせた 背伸びし 笹の高い位置に短冊を飾っていると 見知らぬ男性が近づき 「随分、真剣に悩んでらっしゃいましたね?」 そう耳元で囁き 枝を下に下げてくれた 「あ、ありがとうございます」 黒髪で、切れ長の意思の強そうな目をした男は 一瞬表情を緩め 「ワンピースお似合いですね」 菜穂ちゃんの見立てたワンピースを誉めてくれた 「ありがとうございます」
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