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「あのっすね、職場で、田中さんにちょっかいを出す奴がいたら、兄貴の代わりに蹴落としといてくれって」
──はい?
「愛する夫がいて、すごく仲良しだからって、今日の写真でも何でも見せといてくれって。それか、情報を流してくれたら、自分で蹴落としにいくって」
「な、なんですか、それ?!」
大きな声を出してしまった。反射的にステージの上に目を遣ったら、聡さんとばっちり目が合った。
聡さんは、すぐに、奈緒の隣の斉藤さんに気づいた。さあっと青ざめる。
「わ、わ、わ! そ、そこ! 何話してるの? ダメ、ストップ、ちょっと、すぐ行くから、話しちゃダメ。俺が行くまで待ってて!」
習慣なのか、うっかりしたのか、マイクに向かって叫ぶ。音声がオンになっていたらしく、抜群の音響設備を抜けて、きれいに声が響いた。
聡さんが、焦ってステージから降り、すみません、と周囲に声をかけながら、こちらに向かってくる。
──だめですよ、もう聞いちゃいました。
山辺さんが、聡さんの背中に向かって、わざわざマイクで「転ぶなよ」と声をかけた。
南さんが、「わりとネタを提供するタイプだよね」と冷静にコメントする。川久保さんが、「がんばれー」と能天気にエールを送った。
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