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「いや、あれはね、ちょっと言ってみただけっていうか──。うん、半分は冗談みたいなもので」
引っ張っていかれた会場の隅で、懸命に言い訳をする聡さんを見ていたら、自然に笑いが出てきた。
あとの半分は?と聞きたくなったけれど、気の毒なので黙っておく。
「なんで笑ってるの?」
眉間にしわが寄っている。
「だって、なんか、おかしくて──」
目の端を押さえながら、「三つ目の約束は、斉藤さんにお詫びを言って、取り消しておいてくださいね」と言うと、聡さんがしぶしぶうなずいた。拗ねている。
「情けなさも極まってきたよね、俺」
「そうですか?」
「──うん」
聡さんが、壁に軽く背中をあずける。それから、隣に立つ奈緒の顔をのぞき込むようにして、ふわっとしたほほえみを見せた。
奈緒は、その顔を見つめ返した。
この人と手をつないで歩いていく。どこまでも──。
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