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「大したことじゃないよ。ギター伴奏の依頼です。“風の歌”、プリーズ」
川久保さんが指差した先を見ると、ステージの上で、高木さんが手を振っていた。
「ごめんね、奈緒ちゃん、ちょっとだけ小山内を貸してね。ちゃんと返すからね」
言いながら、川久保さんが、抵抗する聡さんをステージの方へ引きずっていく。
──だから、なんでわざわざ俺なの? それに、さっき、最後の曲だって言わなかった?
──ギタリストなら、ほかにもいっぱいいるよね、この場に!
──ねえ、本当は、嫌がらせなんじゃないの?
聡さんが懸命に抗議している。奈緒は、笑いながらその背中を見送った。
たぶん、十年後も、二十年後も、それどころか五十年後にもきっと、彼と一緒にいて、こんなふうに笑っていることだろう。
ステージの周辺が騒がしくなった。楽しげな話し声と拍手が広がっていく。
聡さんはどうやら観念したらしい。
しばらくして、どこまでもやわらかなギターの音が流れ始めた。
― 終 ―
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