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強い衝撃と、奇妙な納得と、空しさが、脳天から体を突き抜けた。
その言葉は、この2年間の自分をすべて言い表していたのかもしれない。思い当たる節は山ほどあった。
「だとしたら、俺は……どうすればいいのかな」
情けない俺の言葉に、璃久は小さく肩をすくめた。
だが、“自分で考えろ”と言う代わりに、「悪かったと思うんならちゃんと謝ればいいと思うよ。学校でそう教わらなかった?」と、10歳の子供の“ふり”をして、奴は笑った。
―――俺はとんでもないものを、拾って来てしまったのかもしれない。
聖なる日に拾った厄介な小悪魔は、それから数日間俺の家に通い続けた。
俺から絵の知識を搾り取り、4枚の絵を描き、時折俺には見えない誰かに優しく話しかけたりもした。
そして最後の日、「あなたが優しく謝ってくれたって、優香さん喜んでた」と笑い、俺の前から姿を消した。
2年間、原因不明に重苦しかった体が、その日からまるで羽でも生えたように、軽くなった。
◇
それから数か月後、その少年が新聞や雑誌の紙面を賑わした。
何者かに襲われ、背中に瀕死の重傷を負ったという。
俺は居ても立ってもいられなくなり、サユミに少年の家を訊き出して尋ねて行った。
そこには、退院してまだ10日ほどの璃久が居た。
庭先でボンヤリ空を見上げている。
透けるように白く、どこかこの世界とは次元の違う空間をながめているような、あどけない横顔。
どこから来るのか分からない違和感に、俺の背筋は粟立った。
「おい、ぼうず。久しぶりだな」
璃久はゆっくりと、琥珀色の目をこちらに向けてきた。
その眼差しは、つい昨日生まれたばかりの人間のように無垢で、何の雑念も感じられない。
「もう、忘れられちまったかな」
「いえ……。覚えています。絵のお兄さん」
けれど、そう言ったのは俺の知らない少年だった。
そこで俺を見ているのは、触れようとすれば逃げてしまう、小動物の目。
どこか人を食ったような、あの少年の目ではない。
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