イエロー・オーカー

11/12
前へ
/12ページ
次へ
強い衝撃と、奇妙な納得と、空しさが、脳天から体を突き抜けた。 その言葉は、この2年間の自分をすべて言い表していたのかもしれない。思い当たる節は山ほどあった。 「だとしたら、俺は……どうすればいいのかな」 情けない俺の言葉に、璃久は小さく肩をすくめた。 だが、“自分で考えろ”と言う代わりに、「悪かったと思うんならちゃんと謝ればいいと思うよ。学校でそう教わらなかった?」と、10歳の子供の“ふり”をして、奴は笑った。 ―――俺はとんでもないものを、拾って来てしまったのかもしれない。 聖なる日に拾った厄介な小悪魔は、それから数日間俺の家に通い続けた。 俺から絵の知識を搾り取り、4枚の絵を描き、時折俺には見えない誰かに優しく話しかけたりもした。 そして最後の日、「あなたが優しく謝ってくれたって、優香さん喜んでた」と笑い、俺の前から姿を消した。 2年間、原因不明に重苦しかった体が、その日からまるで羽でも生えたように、軽くなった。                          ◇ それから数か月後、その少年が新聞や雑誌の紙面を賑わした。 何者かに襲われ、背中に瀕死の重傷を負ったという。 俺は居ても立ってもいられなくなり、サユミに少年の家を訊き出して尋ねて行った。 そこには、退院してまだ10日ほどの璃久が居た。 庭先でボンヤリ空を見上げている。 透けるように白く、どこかこの世界とは次元の違う空間をながめているような、あどけない横顔。 どこから来るのか分からない違和感に、俺の背筋は粟立った。 「おい、ぼうず。久しぶりだな」 璃久はゆっくりと、琥珀色の目をこちらに向けてきた。 その眼差しは、つい昨日生まれたばかりの人間のように無垢で、何の雑念も感じられない。 「もう、忘れられちまったかな」 「いえ……。覚えています。絵のお兄さん」 けれど、そう言ったのは俺の知らない少年だった。 そこで俺を見ているのは、触れようとすれば逃げてしまう、小動物の目。 どこか人を食ったような、あの少年の目ではない。
/12ページ

最初のコメントを投稿しよう!

31人が本棚に入れています
本棚に追加