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この子は頭がおかしいのか。 それとも、……何か知っていて俺を試しているのか。
……まさかな。
「へえー。そう。……まあ、あんまりそんな妙な事は言わない方がいいと思うよ。友達なくすぞ」
俺は激しい胸の鼓動を隠しながら、軽くあしらうように言った後、全ての荷物を抱えて自宅のある方向に歩き出した。
この後は、高い金を払ってデッサンモデルの女を家に呼んでるんだ。頭のおかしい妙なガキに関わってても時間が無駄なだけだ。
けれど逃げるように背を向けた俺に、そいつは更に言葉を投げてきた。
「綺麗な景色の絵だね。でも、“その女の人”は、“閉じこめないで”って泣いてるよ」
決定的だった。俺は耐えきれなくなり、振り返った。
「なあ、お前。絵に興味があるなら俺の家に来ないか? そんなに遠くないし。面白いもの見せてやるよ」
怒りに語尾が震えていなかっただろうか。
俺がそう言うと、少年は少しばかりの逡巡の後、素直に俺の後に付いてきた。
好奇心が強いのか、ただの馬鹿なのか。
それとも、今時の子供はみんなこんな風に、自分の命の守り方を知らないのだろうか。
◇
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