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「遅いじゃないの。待ちくたびれちゃった」
知人にタダ同然で借りているボロい一軒家に帰り着くと、モデルに雇った女、サユミが玄関口でボヤイた。
絵の専属モデルなどではなく、場末のクラブで出会ったホステスだ。
客との関係にはだらしない癖に、こういう決め事は律儀に守る。意外と育ちは良いのかもしれない。
詫びを入れながら鍵を開け、2人を家の中に入れると、サユミは当然ながらその少年を不思議そうに見つめた。
「すぐそこで友達になってね。絵に興味があるみたいだから連れて来てやった。見学させてやってもいいだろう?」
石油ストーブに火を入れながら俺が言うと、サユミは特に気にするふうでもなく「物好きね」と肩をすくめた。
少年は所在なさげに窓際に立ったまま、困ったようにサユミと俺を交互に見つめている。
こうしてみると、特に変わったところのない普通の少年だ。俺はもしかしたら馬鹿げた勘違いをしてしまったのだろうか。
あれは大人を困らせてみたいだけの、子供じみた悪戯だったのかもしれない。気持ちが鎮まると、そんな風にも思える。
けれど連れて来てしまった以上は仕方ない。
この辺を遊びまわってる子供みたいだし、どうせ帰るのも見学するのも、自分で決めるだろう。
「脱げよ。お前も時間、あんまりないんだろ?」
ぼんやり少年を見つめていたサユミは俺の言葉で我に返り、「そうだった、出勤まで2時間しかないのよ」と言いながら、何の躊躇いもなく着ていた服をスルスルと脱ぎ始めた。
部屋も程良く暖まってきている。
俺が10号キャンバスをイーゼルにセットし、丸椅子に座って筆洗油を準備する頃には、一糸まとわぬ白い裸体を晒したサユミが、二人がけソファの上でおもむろにポーズを取っていた。
一時期モデルを目指していたと言うサユミの体は、豊満な胸、くびれた腰、肉感的な尻、どれをとっても震いつきたくなるほどの極上品だった。
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