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次の日。
世の中が浮かれる聖なる日も、鉛色の空は相変わらず寒々しく、俺の全身の気怠さに拍車をかけた。
俺はそれでも“何か”に衝き動かされるように、商店街の外れの一角に向かった。
そして昨日と同じように露店を出して座った。昨日とは別の目的で。
クリスマスソングも今日で終わりだと思えば腹も立たなかった。
あのF4のイチョウ並木の風景画をエサに、獲物を待つ間の、いいBGMになる。
予感は当たった。
寒さにつま先の感覚が無くなりかけた頃、どこからともなくあの少年が現れ、俺の前にゆっくり歩み寄った。
そして、昨日と同じ一枚の絵を見つめて俯いた。
「よう。また来たな。璃久」
俺がそう言うと、璃久はピクリと顔を上げ、怪訝そうにこちらを見た。
警戒と、敵意と、好奇心。
その複雑で繊細な感情を滲ませたこの少年が、サユミが言ったように狂っているなどとは到底思えなかった。
狂っていないとしたら、……だとしたら、はっきりさせたい事がある。
「また、うちに来るか? 今日はあの姉ちゃんも居ないしさ」
璃久はゆっくりと首を横に振って拒否した。
「絵、本当に描いてみないか? 興味あるんだろ?」
努めて優しげにそう言ってみると、璃久は少しばかり目を輝かせたが、それでもまだ誘いに乗る気配は無かった。
「昨日の女がお前の事教えてくれたんだ。有名人だそうじゃないか。まあ……あまり良い意味じゃ無くね。だけど俺はうわさなんて信じない。ちゃんとお前のこと、知りたいと思うんだ。本当の岬璃久をね」
璃久はじっと俺を見つめた後、コクンと頷いた。
どこか挑戦的な、子供らしからぬ、憎々しげな目で。
◇
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