祖母と過ごしたある夏の記憶

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ミーン ミン ミン ミン ジィージジジジジ (さぁ、ランナーを一塁に進めました、北野烏間高校…) …さ……さよ………よちゃん、 「小夜ちゃん!起きて!」 未だ夢うつつの私の目の前には綺麗に着飾った祖母が立っていた。 涼しげな白地に青い朝顔柄の着物。 手には白の日傘と青い巾着袋。 いつもおしゃれで自慢の おばあちゃんだが、今日はいつにも増して着飾っていた。 「…んー……どうしたの?そんなにおしゃれして。」 「おばあちゃん、ちょっと出掛けてくるから、小夜ちゃん留守番お願いね。もし、おばあちゃん宛に荷物が届いたら、受け取っておいてちょうだい。お願いね、小夜ちゃん。いってきます。」 一息に話終えて祖母が足早に玄関まで行くのを寝起きの重だるい体で追いかける。 祖母は下駄箱の中から白い少し古びた箱を取り出していた。 「…ねえ、どこ行くの?」 「…ん?…ちょっと先の神社までよ。」 箱の中から出てきたのは着物の朝顔柄と同じ青色の草履だった。 古びた箱から出てきたわりには、艶がありまだ新品のような綺麗さがあった。 「そんな格好で?」 「…変かしら?」 「変というか…神社行くのにそんな綺麗な格好していくの?…まあ、いいけど。…暇だし、あたしもついていっていい?」 祖母は手ぬぐいを取り出し、草履を丁寧に拭きだした。 祖母が草履を眺める目はどこか遠く、昔の思い出を懐かしむようだった。 「…小夜ちゃん、高校野球の応援しなくていいの?自分の高校が出てるんでしょ?」 「いいよ、どうせ負けてるし。」 (ワァーーーーーーーーー!北野烏間高校、同点に追いつきました!…) 「…追いついたみたいね。」 「え!」 「ほら、逆転するかもしれないわよ。おばあちゃん、行ってくるから、テレビの前で応援しておいで。」 「…うーん。…そうだね、行ってらっしゃい。気をつけてね。」 「ええ。気をつけて行ってきます。」
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