祖母と過ごしたある夏の記憶

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茶の間に戻り、テレビを見ながらも頭の片隅に いつもとどこか違うような祖母の姿が浮かんできて、野球の応援に身が入らなかった。 (ワァーーーーーーーーー!!!!ついに逆転しました、北野カラ) ピッ 「はあ…。よし!行くか。」 祖母を追いかけることに決めた私は携帯電話だけを持って家を飛び出した。 家から徒歩で行ける神社は2つある。 どちらの神社も祖母と一緒に行ったことがあったが、よく行く方の神社に行くことにした。 気温約30℃。タオルを持ってこなかったことを後悔しながら、神社に辿りついた。 先ほど歩いてきた道のりとは違い、高い木々が生い茂っているため涼しい。 鳥居をくぐって境内に向かうが人の気配がなかった。 (こっちの神社じゃなかったかな?…もしかしてもう帰った?) 少し疲れて境内で休憩していると、前から日傘をさした祖母が歩いてくるのが見えた。 私はおばあちゃんのもとへ駆け出した。 「おばあちゃん!」 「わっ!…小夜ちゃん。」 「驚いたでしょ?来ちゃった。」 「驚いたわ、本当に。野球の応援はどうしたの?」 「ん?おばあちゃんが気になって集中できなかったからさ。…私よりだいぶ先に出て行ったのに遅かったね。私のほうが先に着いちゃったよ。」 「そうね。少し遠回りしてきたから…。久しぶりにこんなに歩いたら疲れたわ。…少し休憩。」 そう言って祖母は日傘を閉じ、境内に腰掛けると巾着袋からハンカチを取り出して私に差し出した。 「汗ふきなさいな。」 「ありがと。」 隣に腰掛けてしばらくどちらとも話さず蝉の声だけが響いていた。
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