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「シェリルっ?」
俺は自分の声で目を覚まし慌てて周りを見渡して、 そこに一片の花びらも人の影も無いことを確かめて、それから頭を項垂れて大きく息を吐いた。
夢だったのかと安心しながらも、彼女をこの腕に抱いたと思ったのに、それでも消えてしまったその嫌な予告とも取れる描写にただ怖くて自分の身体を強く抱き締めた。
彼女は今、どうしているのだろうか。
病に侵され、ボロボロの身体のまま残り僅かな命を削りながらも歌い続けた、あの気高き愛しい歌姫は。
歌への執着は、嫌ってほど感じてもいたし理解もしていたつもりだ。
本当は歌わせずにステージにも立たせず、治療に専念させたかった。
けれどそれはどうしたって自分のエゴでしかあらず、命と引き換えにしてまでも夢を叶えたいと強く願う彼女を止めることなど出来なかったのだ。
「…シェリル」
もう一度だけ名を呟くと、どこからともなく声が響いた。
『しぇりる、とは何だ?』
顔を上げ返事をせずにただ黙っていると、再び声がした。
『ああ、お前の想い人か』
「分かっているならわざわざ言うな!人の心を読むなんて、悪趣味だぞ」
『悪趣味とは何だ?』
「お前のそういうところだよ!」
苛立って返すと、少しだけ笑われたような気がした。
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