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そのまま店は臨時休業になって。夕方になってから秋月は懇意にしているという弁護士の所に行った。間借りしている店の二階で、夏目はもんもんと落ち着かない時間を過ごしていた。
ああいう連中のやり口は知らないわけじゃない。どんなに小さな傷口にでも吸い付いてくる、蛭のようなやつらだ。
真っ正直にしか反応できない秋月は、大丈夫なんだろうか。この店を取られたりしたら、どうなるんだろう。
「あーもうっ!」
何も出来ない自分が歯がゆくて、夏目は髪を掻き毟りながらぐるぐると部屋の中を歩きまわった。時計の進みが、今日はひどくのろい。二人で店で働いている時は、あっという間に時間は過ぎるのに。
「あ!」
秋月の車の音に夏目が顔を上げる。階段を駆け下りて外に出れば、ちょうど母屋の駐車場に車が止まるところだった。
「夏目?」
車から降りた秋月が、夏目の姿を認めて目を見開く。
「秋月さん、どうでした?」
「……ともかく証文を見てもらわない事には何とも……ただ黒木商会は、再開発地域のあちこちに手を出してきているらしい。どうやらうちだけじゃないようだ」
秋月が吐息を落とす。夏目が言葉のかけようもなくその顔を見つめた。
日の沈んだ黄昏の空。風に乗ってお囃子の音が聞こえてくる。
お祭りだ、と夏目が耳を澄ました。
「……蛍、見に行くか?」
そう言って、先に立った秋月が歩き出す。
「秋月さん?」
夏目が慌てて後を追った。
「悩んでばかりいてもしょうがない……また明日、考えるさ」
少し苦い色の笑いを秋月が零す。
細い川に沿って歩いていけば、祭りの音が近くなる。
「秋月さん……どこ行くんです?」
出店で賑わう河川敷よりはかなり手前で、秋月が川原を降りていく。
「蛍を見るにはこっちの方がいい」
昼間の雨で湿ったままの草で足が濡れた。
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