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「―――わ」
夏目の嘆声が上がる。
緑とも黄色ともつかない光が、尾を引きながら舞っている。目が慣れれば、あそこにもひとつ、ここにもひとつと明滅する光が目に入ってくる。
「……夏目」
流れるように飛ぶ蛍を目で追いながら秋月が言う。
「本当に……辞めてもいいんだぞ。俺に気兼ねは要らない」
「……俺、役に立ちませんか」
その声音に思わず振り返れば、すぐ後ろに夏目が立っていて。
「そんなことない。ただ、君に迷惑がか―――」
唇を人差し指で押さえられて言葉が途切れる。
「……お願いですから、もう」
迷惑とか言わないで、と夏目が顔を寄せた。
このひとの側にいたい。俺が、守ってあげたい。
だって、俺。
俺、は―――このひと、が。
不意に天啓のように舞い降りてきた認識。
このひとが―――好き、なんだ。
あきづきさん、と夏目の唇が動く。
黒い瞳に浮かぶ表情に秋月が途惑った。
「夏……」
唇から指が離されて。なのに声が出ないのはどうしてなんだろうと、夏目の瞳から視線を外せないままの秋月が思った。
脇にたらしたままの自分の指さえ動かせなくなって、琥珀の瞳が大きく見開いた。
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